恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「こちらこそ。真城さんの足を引っ張らないように精進します」
「きみなら大丈夫だろ。じゃ、さっそく始めようか」
彼のデスクの隣に私の席が用意されており、促されるまま椅子に腰かける。
後ろに立った真城さんが身を屈め、私のパソコンを操作し始めた。
ち、近い……。けどこれしきで動揺していたら、彼の相棒なんて務まらない。
できるだけ真城さんを意識しないようにパソコンの画面をジッと睨む。
「発注書や納品書の作成、輸出入の手配は前の国内営業部でもやっていたよな」
「はい。でも英語での書類作成は未経験です」
「じゃ、慣れるまでは念のため部長に出す前に俺に見せて。修正箇所があれば指摘する」
「ありがとうございます」
その後も真城さんから業務内容やそれによって使用するソフト、データの保管場所などの説明を受ける。
アナログ派な私は細かくメモを取って頭の中を整理しつつ、仕事へのイメージを膨らませていく。
「基本的にやっていることは国内営業部と似てる。まずは担当地域の市場調査、それに基づく営業戦略の立案。取引相手の国籍や文化が変わるだけで結構勝手が違うから、難しいけど面白いよ」
「面白いと言えるのは真城さんが優秀だからなんでしょうね。私も早くその域にたどり着けるように頑張りたいです」
「神崎さんならすぐだろ。さて、机上の話はこれくらいにしておいて、挨拶まわりに行こうか」
真城さんがそう言ってビジネスバッグを持ったので、私も即座に立ち上がって自分の荷物を持つ。