恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「今日はどちらへ?」
「お世話になってる海運会社がだいたい横浜に集まっているから、そのいくつかとアポを取ってある。挨拶の後は少し港を見て回ろう。万が一輸送のトラブルがあった場合、直接現場に出向いて対応することもあるんだ。だいたいの場所を知っておいた方がいい」
「わかりました」
仕事で真城さんと組むことになったのは予想外だったし多少の気まずさもある。けれど、念願だった海外営業部に配属されたのは間違いなく幸運。
これから新しい環境で大きな仕事ができると思うと、心地いい緊張感と期待感で、胸が弾んだ。
真城さんが運転する社用車で横浜へ向かい、午前と午後に分けていくつかの海運会社を訪問した。
当然海外の企業も多く英語で挨拶する際は多少まごついてしまったが、数をこなすうちに慣れてきて、スムーズに話せるようになった。
もっとも、先月までニューヨークに駐在していた真城さんの英語力には、逆立ちしても敵わないけれど。
「もうこんな時間か。急いで帰ろう」
最後の一社を出て駐車場まで歩く途中、真城さんが腕時計を見て呟く。間もなく定時の午後六時。
辺りは薄暗く、横浜らしい港の夜景が輝き始めていた。