恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「真城さんひとりだったらこんなに時間はかからなかったですよね。仕事の合間にも色々ご指導くださってありがとうございました」
「ご指導ってほどでもないだろ。会社にこもってるより外に出てる方が好きだし、それがこういう景色のいい場所だったりすると、気分転換にもなってちょうどいいんだ」
サラッとそう言って、彼が車のロックを開ける。こちらに極力気を使わせない言い方が、いかにも彼らしい。
「しかし、これが会社の車でなきゃ、このままマンションに帰ればいいだけなのにな」
帰る場所が同じなので、会社に寄るのが億劫なのだろう。
運転席でため息をつく彼からはいつもの眩しすぎるエリート感が薄れ、どこか親しみやすさを覚えた。
「確かにそうですね」
「先にきみのことだけ送ろうか? あとは車を返すだけだし、神崎さんは直帰したと伝えるよ」
「いえ、行きも帰りも真城さんに運転させてしまった上、ひとりで先に帰るなんてできません。もともと残業するつもりだったのでお気になさらず」
運転免許を持っていても、車を持っていないので運転することはなく、単なる身分証明書。
どちらが運転するかという話になった時に真城さんにもペーパードライバーだと正直に伝えたから、今日は彼が運転を買って出てくれた。
仕方がないこととはいえ、これ以上彼に甘えるわけにはいかない。
運転ができなかった代わりに、明日以降の彼の負担を軽減するべく少し仕事をするつもりだから、会社に寄ってもらえた方が都合がいいのだ。