恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
どんなに走ってもなんとなく無心になれないまま、海が見える埠頭でコースを折り返す。自宅方面へしばらく北上すると、建設中のビルがいくつも見えてきた。
その奥でひときわ存在感を放っているのが、私が住むマンションだ。地上二十六階建てで、青空に映える白い外壁が眩しい。
走る速度を緩めながら敷地へ入ると、出て行く時には空いていた平面駐車スペースに引っ越し業者のトラックが停まっていた。
人気の新築マンションだがわずかに空室もあるらしく、角部屋である我が家の隣も、まだ誰も引っ越してきていない。
挨拶がそのぶん少なく済んで気楽だったけれど、そのうち隣人が来たら今より少し気を使う生活になるかもしれない。
私はひとり暮らしだから、とくに騒音を立てることはないけれど。
エントランスから中へ入ると、通路のあちこちがブルーの養生シートで保護されていた。搬入の邪魔にならないようそそくさエレベーターへ向かい、自宅のある十八階へ上がる。
到着して扉が開くと、またしても養生シートが通路に青い道を作っていた。
「もしかしてこの階……?」
小さく呟きながら通路を進み、突き当たりを自宅のある方へ折れる。すると、ちょうど我が家のひとつ手前の部屋が、まさに引っ越し作業中だった。
開け放たれた玄関を、ツナギ姿の若い男性作業員がせわしなく出入りしている。
お隣さんが引っ越してきたようだ。
あまりジロジロ見るのはよくないと思いつつ、隣人がどんな人か気になりそれとなく引っ越しの様子を眺める。