恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 私は無関係な人間だけれど、女性の泣き顔と、直後に会った真城さんのどこか冷たい態度を考えると、どうしても女性側に同情してしまう。

 会社でも目立ってモテる彼のことだから、彼女という恋人がいながら他の女性とも……みたいな、だらしない行動を取ったのではないかと。

「不思議と、泣きつかれることは多いんだ。だけど、本気で選ばれた経験は一度もない。せいぜい、相談相手とかそんな感じだ」
「相談相手……」

 にわかに信じがたい話だ。

 会社で真城さんと付き合いたい女性に挙手を求めたら、女性社員の九割が手を挙げそうなイメージなのに。

 内心そんなふうに思っていたら、真城さんは自嘲気味に続ける。

「付き合いたくはないけど、結婚するなら真城くんかな、みたいな。そういう話題にのぼるだけの存在っていうのかな。〝いい人止まり〟とかよく言うだろ? どうやら女性の目から見て、俺はそういう残念な存在らしい」

 ……意外だった。真城さんにそんなコンプレックスがあったなんて。

 仕事と同じように、狙った獲物は逃がさないタイプだとばかり思っていた。

 でもそういえば、前に女性社員に囲まれていた時、彼は困った顔をしていたっけ。

 適当にあしらえばいいのに、どんな疑問にも真摯に答えてますます女性たちを喜ばせ、話を切り上げるタイミングを見失っていた。

 つまり、真城さんは根っからの人たらしというわけではなく、実は優しすぎて不器用なだけ……?

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