恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「――って、なんか愚痴っぽくてゴメン。せっかく綺麗な夜景を見てるんだから、ここは神崎さんを口説くところだよな。きみの方が綺麗だよ、とか言って」

 急に饒舌になる彼だけど、表情も口調もあからさまにぎこちなくて、本心でないのは明らかだった。

 珍しく隙だらけの彼に面喰らって、なのに不思議と笑顔がこぼれた。

「大丈夫です。『夜景よりきみの方が――』なんてセリフを吐かれたら、それこそ真城さんのこと胡散臭い人認定していましたよ」
「うわ、危なかったー……」

 おおげさに安堵の息をつく真城さんがおかしくて、クスクス笑う。

 今までの私は、彼のことを浮世離れしたエリートと認識し、勝手に壁を作っていた。

 でも今は、彼にも人間らしい一面もあると知ったせいか、その壁が崩れて適度に緊張感が抜けた。

 もう少し彼とゆっくり話してみたくなって、ベイブリッジを渡る途中、頭上に【P】の標識を見つけ、彼に問いかける。

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