恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「真城さん、大黒(だいこく)パーキングに寄りませんか? 運転のお礼にコーヒーご馳走します」
「あ、もしかして俺のこと哀れんでる?」

 拗ねたように唇を尖らせる真城さん。

 こんなに卑屈な彼も珍しいのではないだろうか。壁がなくなったのは私の方だけではないのかもしれない。

「とんでもない。どちらかというと仲間意識感じちゃいました。私も恋愛はダメダメなので」

 彼ばかりが弱みを晒すのはなんだかフェアじゃない気がして、私も少し迷いつつ自分のコンプレックスに触れた。

 暗いムードにはしたくなかったので、極力明るさと笑顔をキープする。

「……そっか。まったく、誰も彼も見る目ないよな」

 深い事情まで聞いてこないのは、真城さんの気遣いだろう。

 やっぱり優しい人なんだなと、あらためて彼の人柄に好感を持つ。

「でも大丈夫です。私たちには仕事と、あの素晴らしい住まいがあるじゃないですか」

 勝どきの高級レジデンスに住んでいるのは、上質な暮らしを送るためだけでなく、こうやって自分のモチベーションを上げるため。

 真城さんという同志とも隣人になれたことだし、やっぱり引っ越して正解だった。

「確かに。おひとり様上等だよな」
「その通りです!」

 異様な盛り上がりを見せる車内はロマンチックとは程遠いが、たまにはこんな夜もいいだろう。

 恋も愛もなくても遠ざかる横浜の夜景は綺麗で、私は真城さんの隣にいるのを初めて心地よく感じた。

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