恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「俺たち同じマンションに帰るから」
異動から二週間経った週の金曜日。新年度のバタバタ感も少し落ち着いてきたので、営業部の若手社員に部長を加えた十名での飲み会が開催された。
会場は会社から徒歩圏内の、高級感のあるステーキハウスだ。
以前、アメリカワインが飲みたいと言っていた女性社員の希望を律儀に覚えていた真城さんが、店のチョイスも予約も済ませてくれた。
退勤時間はいつもバラバラな営業部メンバーだが、今日ばかりはみんな気合いを入れて定時に切り上げていた。
店までの移動中、とくに誰とも群れずに歩く私の前方で、真城さんがまたしても女性陣に囲まれている。
いつものように愛想よく対応していたけれど、彼の素顔を知った今、優しくしすぎて疲れていないか勝手に心配になる。
「さっきから真城のことばっか見て、周りの女たちに妬いてんのか?」
そう言ってふいに隣に並んできたのは、針ヶ谷さんだ。
先月試飲会をすっぽかした一件について、結局彼の発熱の真偽はわからないまま。
しかし、彼がいなくとも無事にレストランと契約に至ったことを報告すると、あからさまに不満そうな顔をしていた。
とはいえ、私はもう別の部署に異動した身。ようやく彼との繋がりが切れたと思っていたのに、なぜいまだにこうして突っかかってくるのだろう。