恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「そうやって人をからかう癖、いい加減直した方がいいですよ。別に、私と真城さんはただの同僚でなにもありません」
「そう思ってるのは神崎だけじゃないのか? 真城って、明らかにお前のこと特別扱いしてるだろ」
針ヶ谷さんがにやにやして私の耳元に顔を近づけた。
不快すぎて思い切り顔を背けたくなるが、あまりムキになるのも不本意だ。
「とくに特別扱いだと感じたことはありません。私と彼がペアを組んでいるからそう見えるだけじゃないですか?」
「へえ、そう。じゃ、神崎の中では真城より俺の方が男として上ってことだよな」
「はい?」
意味不明すぎて、声が裏返りそうになった。
針ヶ谷さんのことはもはや性別を超えて、人間的に無理な存在である。
そして今、真城さんと同じ土俵に立てると思っている彼の傲慢さを知り、これ以上下がるはずがないと思っていた好感度がついに底辺まで落ちたところだ。
呆気に取られていると、針ヶ谷さんがなぜか照れくさそうに笑う。
「お前、飲み会とかあんま好きじゃないじゃん? なのに今日来てるってことは、やっぱ真城目当てなのかなとか思ってたわけよ。でもそうじゃないってことは……」
確かに、私はそれほど付き合いがいい方じゃない。お酒は好きだけど、会社の飲み会は仕事の延長のようで楽しく酔えないから、欠席することも多かった。
ただ、今日は真城さんが『プライベートで色々な店に行っておくと、あとで仕事に役立つ場合もあるよ』と助言してくれたから、そういうこともあるか……と納得して参加しただけだ。
こんな風に絡まれるくらいなら、やっぱり欠席すればよかった。