恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

『そうじゃないってことは……』の先をなかなか継がない針ヶ谷さんの視線が妙にねっとりしてきて、うっすら肌が粟立つ。

 もしかして、私が彼目当てで参加したと誤解している?

 なんて都合のいい思考回路をしているのだろう。

「なぁ神崎。お前、やっぱ見た目は俺の好みだしもう一回――」

 明らかに下心を漂わせる針ヶ谷さんに頭の中で警報機が鳴り響いたその時、目の前に人の気配を感じた。

「神崎さん、ちょっといい?」

 いつの間にそばに来たのだろう。真城さんが、私たちの行く手を阻むように立っていた。針ヶ谷さんがつまらなそうな顔をして、少し私から距離を取る。

「は、はい。なんでしょう……?」
「今日は何時くらいに帰るつもり?」
「えっ? ええと、とりあえず一次会がお開きになる頃には……」

 店の予約は午後七時から二時間半。その場の雰囲気にもよるが、遅くとも十時までには帰るつもりだ。

「じゃ、俺もその頃一緒に帰るよ。ひとりじゃ危ないから送っていく」

 真城さんの発言に、針ヶ谷さんが隣でぎょっとした顔をする。

 私の頭の中も疑問符で一杯だ。

 どうして急に一緒に帰るだなんて? 真城さんの純粋な優しさ?

 さっきまで彼を取り囲んでいた女性陣からの痛い視線も感じ、慌ててしまう。

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