恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
強がりのきみ――side昴矢
 最近マンションの中でも、会社と家との往復の間でも、神崎さんと会わない。

 彼女はどうやら出勤も退勤も、わざと俺と時間をずらしているようだ。

 ……たぶん、会社の外では俺と会いたくないから。

 脳裏に思い浮かぶのは、一週間前、飲み会からふたりで帰宅した場面だ。

 部屋の前まで帰ってきたところで、俺は神崎さんに『ふたりで会いたい』と告白未遂のようなことをしてしまった。

 頬を真っ赤に染めた彼女を見て少しは脈があるかと期待したものの、神崎さんから帰って来たのは『同僚としてなら』という、大人の対応。

 つまり、告白未遂の時点でフラれたというわけだ。

「困らせたよな……」

 今日も彼女の気配がしない出勤ルートを辿り、なんとなく浮かない気分のまま到着した会社の廊下で、思わずひとりごちる。

 あれがなければ、仕事上の相棒としての関係は良好だったはず。今でも会社では彼女とのコミュニケーションに問題はないが、以前よりあきらかに一線を引かれているのを感じる。

 神崎さんのことはニューヨークに発つ前から知っていた。

 ハッキリとした顔立ちの美人で、仕事はできるがあまり他の社員と群れたりしない、高嶺の花のイメージ。

 それほど多くの会話を交わしたことはなかったが、耳に入ってくる彼女の営業成績や仕事への向き合い方には一目置いていた。

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