恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「そうだ、真城さんに見ていただきたいものがあったんです。午後のオンラインミーティングで使う、英語の進行表。基本的には大丈夫だと思うんですけど、大切な商品名などにミスがないか、チェックしていただけたらって」
プライベートには触れるなと言わんばかりに話を遮られ、消化不良の感情を抱えつつも、小さく息を吐いて気持ちを落ち着ける。
……今のは俺が悪かった。仕事の仕方は彼女の自由だし、俺に会いたくないから会社に長い間とどまっているのでは、というのも、俺が勝手にそう思っているだけ。
ただの妄想で神崎さんの時間を奪ったら、それこそ本末転倒だ。
「わかった。すぐ見るから送って」
「はい、お願いします」
てきぱきした動作で自分のデスクに向かう彼女の後ろ姿に普段と変わったところはないが、それでもやっぱり心配なんだよな、と思う。
隣人歴二カ月、相棒歴はまだ一カ月弱だが、神崎さんの人となりはだいたいわかっているつもりだ。
その上で、彼女の〝大丈夫〟を過信してはいけないような気がする。
神崎さんはあまり俺に構ってほしくないだろうけど、今日はいつもより彼女の様子を気にかけていよう……。
彼女と隣同士のデスクの椅子を引くと、俺はさっそく送られてきたデータに目を通した。