恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
神崎さんの進行表はよくできており、午後のオンライン会議三件が無事に終わった。
彼女の英会話は異動当初よりめきめき上達しており、打ち合わせのための下調べも入念。
国内営業部で培ってきた商品知識も役立て、どんな方向からの質問でも完璧に答えていた。俺の出番がほとんどないくらいに。
それぞれの取引先の反応も上々で、素晴らしい仕事ぶりであるのは確かなのだが……隙がなさすぎて、逆に心配になる。
俺の足を引っ張らないようにと思うあまり、必要以上に気を張っているのではないかと。
「本日のお打ち合わせはこれで終了いたします。のちほど、関係資料をメールさせていただきます。貴重なお時間をいただきありがとうございました」
俺たちがいつも仕事をしているだだっ広いオフィスとは別の、小さな会議室。
そこで、最後のミーティングの相手であった、デンマーク在住のワインの生産者、ニルセンさんに向けて、神崎さんが英語で締めくくりの言葉を述べた。
こちらは現在午後五時だが、デンマークは午前十時。時差を考慮してミーティングのスケジュールを組むことにも、彼女はだいぶ慣れてきた。
ニルセンさんも丁重にお礼を言って、オンライン会議から退出する。こちらもマイクとカメラをオフにして終了の処理を済ませると、神崎さんも少しだけ肩の力が抜けたように見えた。