恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
神崎さんは長い睫毛を伏せしばらく悩んだ様子を見せたが、やがてその大きな瞳に俺の姿をしっかりと映した。
「……いえ。単純に、私が真城さんと会社の外で会いたいと思いました」
ぶわっと、全身の体温が上がった。
神崎さんの口調は事務的にも聞こえるくらい淡々としていたが、その中身は、俺たちの関係を大きく前進させるものだ。
あまりの感動で、油断したら彼女を衝動的に抱きしめてしまいそうだった。
もちろんぐっと堪えるが、溢れる感情の行き場がなくて、しみじみと喜びに浸るように息をつく。
「ありがとう。じゃ、神崎さんが元気になったら行こう。約束だ」
そう言って彼女を見つめる眼差しが、自分でも甘く蕩けているのがわかる。
神崎さんは居たたまれなくなったように俺から目を逸らし、スタスタと少し先へ歩くと、俺を振り返らないまま言った。
「こ、こちらこそ。……あの、頼んでくださったタクシーを待たせても悪いので、急ぎましょうか」
頭の後ろで髪をひとつに結んでいるので、後ろから見ても耳が紅く染まっているのが見えた。
……照れてる。かわいい。
なんて口にしたらきっと怒るし、せっかくの約束をなかったことにされても困る。
俺は心の声が表に出ないよう注意しながら、それでも口元を緩めていた。