恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「……資料室の整理が部長からの特命? しかも、針ヶ谷がデータを消した?」
「はい。来週には業者が来てデータも復旧が叶うようですが、部長に言われていた通りかなり荒れていた一角があるので、資料を元に戻して、置き場所の見取り図も作って……今日にはその作業が完了する予定でした」

 彼女があの場所で倒れていた理由を、タクシーの車内で聞いた。

 少し前の飲み会で『雑用』と言っていたのは嘘ではなかったらしい。

 あの夜は、俺が席を外した直後に部長が彼女の隣をキープしてなにやら話し込んでいたから嫉妬で気が気じゃなく、神崎さんの話を冷静に聞けていなかった。

 早とちりしていた自分が少々恥ずかしい。

「じゃあ、その作業中に気分が悪くなったのか」
「はい。本当はすぐに終わるはずだったのに、誰かがまた雑に資料を戻したらしくて、時間がかかってしまって」

 その〝誰か〟の尻拭いを神崎さんがしたってことか? いくらなんでも、お人好しが過ぎるだろう。

 それに、営業部ですれ違った針ヶ谷の様子から察するに、犯人はアイツである可能性が高いように思える。

 意図的なのか、ただ仕事ができないだけなのか……。どちらにしろ、針ヶ谷とも一度じっくり話す必要がありそうだ。

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