恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「わかりました。私でお役に立てるかどうか自信はありませんし、真城さんが逆の立場になる状況はあまり想像できませんが……助けが必要な時は遠慮なく言ってください。お力になれるよう努力します」

 やっと顔を上げてくれた彼女が、そう言って力強い眼差しを返してくれる。

「期待してるよ。でも、まずは体調をちゃんと整えてからな」
「はい、もう大丈夫です。昨日まで、眠れないからって真夜中にランニングしたりしてたのも、きっといけなかったので……」
「えっ。真夜中にランニング?」

 思わず聞き返してしまった。

 彼女が時々趣味で近所を走っているのは知っていたが、休日やそれほど忙しくない日だけだろうと思い込んでいたから。

「資料室の整理を頼まれてから、自分でもこれは私がやるべき仕事なのかなって、無意識にモヤモヤしてたんだと思います。だからといって後から断るのも気が引けるし、無理をしてでも私がやればすぐに終わる。そうやって無理やり納得したつもりだったんですけど……やっぱりスッキリしなくて、つい走りたくなってしまって」

 神崎さんとしてはストレス解消のつもりだったのだろう。しかし、疲れた体に鞭を打って走っていたから、身体には疲労が蓄積してしまった。

 そのツケが、今になって回ってきたというわけだ。

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