恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 考えるより先に行動できるのも彼のすごいところで、資料室で立てなくなっていた私を躊躇わずに抱き上げ、医務室へと運んだ。さながらヒーローのように。

 それでいて『きみの意思を確認せず勝手に抱き上げたりして悪かった』と後になって反省する姿には、真城さんらしい優しさが滲んでいて胸に温かい気持ちが湧いた。

 彼は本当に素敵な男性で、そんな人から好意を向けられていることは素直にうれしい。だから、食事の約束もしたのだ。

 ただ……淡い予感が胸の内で膨らんでいくにつれ、同じくらい不安も成長していた。

 これまで経験してきたいくつかの恋愛と同じ失敗を、また繰り返すのではないかと。

 タクシーで彼の手が軽く私の頭に触れた時は、まさに私の悪いところが出た。

 真城さんの大きな手の感触にドキッとして、体温が一気に上がって、あのまま撫でられ続けていたら心臓が破裂しそうで、思わず距離を取った。嫌がっていると誤解されても仕方のない反応だったと思う。

 彼はなにも悪くないのに『ごめん』と謝らせてしまった。あの時の真城さんの傷ついたような瞳が忘れられない。

 甘え下手なだけでなく、恋人とのスキンシップにいつまでも慣れなくて、咄嗟に相手から離れたり、その場でフリーズしてしまう。

 それが、長年治らない私の悪い癖。

 そんな状態ではキスやセックスだってうまくいくはずがなく、こわばりの解けない私の体を前にすると、男性はみんな萎えてしまう。

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