恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 いくら真城さんが優しい人でも、いざ付き合うとなったら幻滅するに違いない。

 だったらこれ以上は踏み込んだ関係にならない方がいいとわかっているのに……こうして壁の向こうに彼の気配を探しているんだから、救いようがない。

 はぁ、と大きくため息をついて、まぶたを閉じる。明日からまた仕事だから、これくらい怠惰に過ごしても許されるよね……。


 いつの間にか寝入ってしまったらしく、目を覚ました時には夕方の四時を過ぎていた。電気をつけていなかったとはいえ、まだ日が落ちる時間ではないのにやけに部屋が暗い。

 窓辺に歩み寄ってカーテンを開けると、真っ黒な雲が空を覆っていた。

「完全に雨降りそう……」

 そう気づいてからハッとする。午後は食材の買い出しに行こうと思っていたのに、うっかり忘れていた。

 昼に冷蔵庫を整理してしまったので、今日の夕食以降に食べるものがなにもない。平日は忙しいので休日にまとめ買いしておくのが習慣なのだ。

「急いで出れば平気かな……」

 スマホの雨雲レーダーによると、雨が降り出すのは一時間後くらい。その後はしばらく止まない予報なので、さっさと行ってしまった方がよさそうだ。

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