恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 斜め掛けのバッグに折り畳み傘を忍ばせ、マンションの外に出る。急に強くなった風の香りがいかにも雨が降る直前で、自然と早足になった。

 十分弱で、商業ビルの一階に入った小さなスーパーに到着する。

 私と同じく、雨が降る前に買い物を済ませようという人が多いのか、店内は少々混雑していた。

 適当な野菜と、保存しやすい冷凍の肉や魚。朝食用のハムやパン。足りなくなっていた調味料をいくつかかごに入れ、セルフレジの列に並んだ。

  自分の番になり、バーコードを読み込む作業を繰り返している途中。店の外でズシンと地鳴りのような音がして、心臓がドクッと脈打った。

 隣で同じようにレジの作業をしていた中年の女性が、「あらやだ、雷ね」と独り言のように呟く。

 雨だけならまだしも、雷まで……?

 またいつあの音がするかと思うとそれだけで動悸が激しくなり、早くレジを済ませたいのに手元が狂ってうまくいかない。

 私は雷の音も、予告なく辺りを光らせる稲妻の光も大の苦手なのだ。

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