恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
だから、その後もずっと私は雷が苦手なまま。
あの時私をひとりにさせなければよかったと両親に後悔させたいわけではないので、家族の前では平気なふりをしているけれど……本当は、いつも雷鳴を耳にした一瞬であの時の幼い私が戻ってきてしまう。
電気が消えたくらいで絶望する必要はないし、闇の中にお化けはいない。
理屈ではわかっているのに、恐怖で身体が動かなくなってしまうのだけはどうしても治らない。
だから社会人になった現在、その日天気予報で雷が鳴ることが事前にわかっていればノイズキャンセリング付きのイヤホンを持ち歩くし、休日であればそもそも出歩かず、雷が鳴りだしたらイヤホンを耳に嵌め、布団の中でうずくまる。
そのやり方でこの年までなんとかやり過ごしていたのだけれど……今日は慌てていたせいで久々になんの準備もなく外出してしまった。
雷が本格的に近づく前にマンションに帰らないと……。
スーパーを出ると幸い雨はまだ降っていなかったが、頭上には先ほどよりも色の濃くなった黒い雲が垂れこめている。
マンションまでは十分もかからないし、さっき見たレーダーの通りなら濡れずに帰れるはず。
エコバッグの持ち手を肘の辺りまで通し、小走りで帰路を急ぐ。
マンションはすぐに視界に入ってきたけれど、その後ろを漂う雲と雲の隙間がピカッと明滅し、数秒を置いてドォン、と落雷の音がした。