恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「ひっ……!」

 自然と足が止まってしまい、ギュッと目を閉じた。

 しばらく音が止んだところで、おそるおそる目を開ける。心臓はまだバクバクしているが、家に帰らないわけにはいかない。

 深呼吸をして、一歩踏み出す。鼻の頭にポツンと雨粒が落ちてきたかと思ったら、すぐに本降りの雨になった。

「傘……っ」

 慌てて斜め掛けしていたバッグに手を入れると、空がまたゴロゴロ鳴り始める。

 私は折り畳み傘を探すのを諦め、両手で耳を塞いで駆けだした。

 服もエコバッグもずぶ濡れになるが、構っていられない。

 とにかく家に帰り、早くイヤホンを耳に嵌めて布団をかぶり、雷の存在を無視したかった。

 アスファルトに溜まった水溜まりも気にせずに走り、ようやくマンションの敷地へ入る。しかし、エントランスに入る直前でまた空が光り、先ほどよりも間隔を置かずに落雷の音がした。

  間もなく家だからと油断して耳から手を離していたため、お腹の方にまで響く恐ろしい音が、私の足をすくませた。

  ――こわい。
 
 心に棲みついている六歳の私がそう叫び、思考をショートさせる。

 私は扉の脇の壁に体を預け、ずるずるとしゃがみ込んだ。

 カタカタと震える体を抱きしめて、ただ時間をやり過ごすことしかできない。

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