恋は復讐の後で
sideダニエル
今日は本来であれば、僕とオスカーの誕生日だった。
オスカーは僕と同じ皇后の息子で、温和な性格をしていて国民人気も高い。
僕が皇帝になる上で1番邪魔な男だ。
そして、もう1人気にも留めていなかったのに邪魔で仕方がなかった男がいた。
第1王子のマテリオだ。
父上が気まぐれに手を出したメイドの子で血筋は卑しい。
しかし、彼は嫌がらせに死地に追いやっても、いつも勝利をおさめ生きて帰ってきた。
マテリオは平民人気は高いが、血筋を重んじる貴族からは軽んじられている。
彼は僕にとってライバルでも何でもなかった。
あの日、中庭でナタリアと一緒に秘密の計画を立てる彼を見つけるまでは⋯⋯。
聞き耳を立てるなんて下品なことだとは分かっていたが、見たことも無い程に柔和に微笑んでいるマテリオと頬を染めるナタリアを見て心臓が止まりそうになった。
ナタリアと初めて会ったのは、彼女の家が没落してエステルの家で彼女がメイドとして働き始めた時だ。艶やかな黒髪に長いまつ毛に彩られた憂いを帯びた美しいパープルアイ⋯⋯僕より1歳年下だと言うのに大人びた彼女に釘付けになった。一目惚れというものを生まれて初めてした。
僕は自分の地位を確固たるものにする為に、エステルと婚約していた。
だから、ゆくゆくはナタリアを僕の情婦にでもしたいと思っていた。
ナタリアに隙を見ては話しかけた。
何を考えているか分からないが、僕に興味を持っているようにも見えた。
ナタリアが頻繁にマテリオの元を訪ねていると聞いた時には、エステルの影を感じた。
彼女は僕がナタリアに惹かれているのに気がついて、僕が彼女から興味を失うようにマテリオに接触させたのだろう。
そうでなければ、頻繁に皇宮を訪れるナタリアをエステルが咎めもしない訳がない。
「ナタリア⋯⋯僕たち別人に生まれ変わらないか? 他国の戸籍を買ったんだ」
「マテリオ、私はあなたと一緒にいられるならば自分が誰だとかどうでも良いわ」
2人は寄り添いながら、中庭で愛を語らっていた。
ナタリアは確かにガレリーナ帝国にいる限りは永遠に大罪を犯し没落した父親と娼婦の娘だ。
彼女の美しさと独特な雰囲気に惹かれる男はいても、彼女と結婚しようという男はない。
マテリオがガレリーナ帝国の皇子という立場を捨ててまで、ナタリアと一緒にいるという道を選ぼうと思っているのが気になった。
帝国の皇子という恵まれた立場を失っても、ナタリアと一緒にいたいと思っているマテリオは僕の知っている人嫌いの彼ではなかった。
僕がナタリアと話したのは数えられる程度だ。
僕が彼女に関わる度にエステルが面倒な嫉妬をするから会話の機会が持てなかった。
僕は彼女の美しさに惹かれ情婦にしたいとは思っていたが、全てを捨ててまで彼女と添い遂げたいとまでは考えていなかった。僕にとってあくまで重要なのは皇帝になることだ。
ナタリアとマテリオが急速に仲を深めていた事に不快感を覚えていた時に、エステルの弟サントスが僕に急ぎの謁見申請をしてきた。
「姉上が⋯⋯ナタリアにマテリオ皇子殿下を殺すように命令していました⋯⋯ダニエル皇子殿下、彼女は姉上には逆らえません。いくら血筋卑しきマテリオ皇子殿下でも、皇族です。皇族暗殺は極刑ですよね」
唇を振るわせ真っ青な顔で僕に漠然と助けを求めるサントスは心底ナタリアに惚れているのだろう。
僕はナタリアに対して美しくて側におきたいという気持ちはあっても、彼女の為に何かしたいとまでは思ってなかった。そもそも僕は人の為に何かしたいなどと考えた事は1度もない。
他人は誰よりも上にあるべき僕をあるべき場所に連れていく道具だと思っていた。そして、ナタリアは輝かしい僕の人生に彩りを与えてくれる存在だと感じていた。
「マテリオを殺す大義名分があれば良い⋯⋯」
僕が呟いた言葉を瞬時に理解できないサントスは貴族としては純粋過ぎる。
僕はサントスに目の上のたんこぶであるオスカーごとマテリオを消す計画を話した。
サントスは僕の計画に震えるが、意義を唱える勇気もない。
おそらく、彼はエステルに僕の話した事を伝え彼女が僕の意を汲み取り勝手に動いてくれる。
エステルは本当に便利な女だった。
僕はサントスを通してエステルの計画を知り、隠し通路の出口へ急いだ。
そこで見たのは脇腹を刺され意識を失ったナタリアを必死に止血する血まみれのマテリオだった。
僕の姿を見るなり命の危険を察したマテリオはその場を去った。
そこで、目を開けたナタリアは僕に一目惚れ以上の不思議な感情を与えた。
ひたすらに美しい顔でキノコを求める彼女に心臓を鷲掴みされた。
非常に卑猥な隠語を連発して僕を誘惑するような素振りを見せながら、なぜか素っ気ない彼女の事が気になって仕方なかった。
掴みどころのない彼女に駆け落ちまで決心させたマテリオを恨めしく思った。
それからずっとナタリアの事を考えていた。
全裸で跪かされても気丈に振る舞う彼女がいじらしくて僕は堪らない気持ちになった。
誕生日にナタリアに会えない事を嘆いていると、僕は舞踏会会場に彼女の姿を見つけた。
いつもと違って美しく着飾った彼女はまるで女神のようだった。
「殿下、こちらを見てください。あなたの生涯の伴侶は私ですよ。ねぇ、殿下ってばぁ」
ダンス中に請うような媚びた目でエステルに見つめられて鳥肌が立った。
公式な場で誰が見ているかも分からないのに、甘ったるい声をだして擦り寄ってくる。
僕が彼女を家柄以外で唯一買っていたのは、帝国の貴族令嬢として清廉潔白で貞潔である事を重要視していたからだ。
それなのに今日の彼女は体が熱くなってきただの安っぽい売女なようなアピールをしてくる。
はっきり言って、不快で見てられない。
僕は一曲目が終わるなり、早々エステルの元を離れてナタリアの元へと急いだ。
僕が目の前に来るなり、まるで僕の行動を予想してたかのようにナタリアが微笑む。
瞬間、彼女の全てを欲しい衝動に囚われた。
彼女が今、誰の事を考えていても構わない。
僕と関われば彼女は必ず僕に惹かれ夢中になる。
なぜなら僕は神より選ばれた次期皇帝になる男だからだ。
「ナタリア、君と踊れる幸運を僕にくれないだろうか」
彼女の瞳をじっと見つめ口説くと、そっと微笑みながら彼女は僕の手をとった。
その時、僕たちの間にエステルが割って入った。
やはり今日のエステルはどこか変だ。
このような事をすれば、悪い意味で注目を集める事が理解できない女ではなかった。
「殿下、私、今日はとっておきのプレゼントがあるのです。もう、早く殿下に差し上げたくて気持ちが昂っています」
「エステル⋯⋯」
僕は非常に困っていた。
皆が注目を集める中、婚約者である彼女を蔑ろにはできない。
それでも、僕からダンスに誘いナタリアが受けたのを皆が見ている。
「殿下、申し訳ございません。なんだか、急に寒気がしてしまい。退室しても宜しいでしょうか」
ナタリアが上手い事その場をおさめてくれた。
僕から離れていこうとする彼女の手を離せずにいると、彼女がそっと耳元で囁いた。
「お誕生日おめでとうございます。殿下⋯⋯」
耳を澄ませないと聞こえないような声で彼女が僕に伝えてくれた言葉が心に沁みた。
気が付くとナタリアはサントスに連れられて、会場の外へと出ていってしまった。
名残惜しそうに彼女の去った後を見ていると、不意に強く腕を引かれる。
「エステル、どうしたんだ⋯⋯今日の君はどうかしてるぞ」
「私は早く殿下とどうにかなりたいんです!」
今日の主役である僕を会場の外に連れ出すエステルは、本当にどうかしている。
周囲の貴族たちが困惑しているような目で僕たちを見ていた。
その中に彼女の父親であるカイラード・ロピアンもいて、僕は彼女を蔑ろにする事ができない。
腕を引かれてたどり着いたのは、彼女を何度か泊まらせた事がある客室だった。
彼女が部屋の扉を閉めるなり言いようのない恐怖に駆られる。
よく見ると彼女の目は焦点があってなく、瞳孔が開き切っていてなんだか様子がおかしい。
(何でもっと早く気が付かなかったんだ⋯⋯明らかに麻薬の類いをやっている⋯⋯)
「エステル、君は今日はもうここで休むんだ。僕は本日の主役として会場に戻らなければならない」
「殿下、私たちが婚約して10年です。ずっと殿下の為に努力して来たんです。ご褒美をください」
彼女は体をくねらせながら僕に近づいて僕をベッドに押し倒した。
彼女が自分のスカートの中に手を入れたと思うと、いよいよ怖くなってきた。
(なんだ? 下着でも脱ぐつもりか? そのようなことされたらマズいぞ)
今、僕と彼女がこの部屋に入った事を目撃した人間は多数いる。
誕生祭の場で不埒な行為に耽っていたとなったら、僕にとってはマイナスだ。
結婚前は貞操が望まれる帝国の貴族令嬢としての彼女の評判は失墜する。
皇位継承権を争う他の2人の皇子が戦線離脱している今でも、気を抜いてはいけない。
僕は少々乱暴かと思ったが、彼女を突き飛ばした。
すると、彼女はスカートの中から出した香水のようなものを僕に吹きかけてくる。
とてつもない悪臭に吐き気がする。
(本当に何を考えてるんだ!)
僕はハンカチーフで鼻と口を抑えながら必死に部屋を抜け出した。
オスカーは僕と同じ皇后の息子で、温和な性格をしていて国民人気も高い。
僕が皇帝になる上で1番邪魔な男だ。
そして、もう1人気にも留めていなかったのに邪魔で仕方がなかった男がいた。
第1王子のマテリオだ。
父上が気まぐれに手を出したメイドの子で血筋は卑しい。
しかし、彼は嫌がらせに死地に追いやっても、いつも勝利をおさめ生きて帰ってきた。
マテリオは平民人気は高いが、血筋を重んじる貴族からは軽んじられている。
彼は僕にとってライバルでも何でもなかった。
あの日、中庭でナタリアと一緒に秘密の計画を立てる彼を見つけるまでは⋯⋯。
聞き耳を立てるなんて下品なことだとは分かっていたが、見たことも無い程に柔和に微笑んでいるマテリオと頬を染めるナタリアを見て心臓が止まりそうになった。
ナタリアと初めて会ったのは、彼女の家が没落してエステルの家で彼女がメイドとして働き始めた時だ。艶やかな黒髪に長いまつ毛に彩られた憂いを帯びた美しいパープルアイ⋯⋯僕より1歳年下だと言うのに大人びた彼女に釘付けになった。一目惚れというものを生まれて初めてした。
僕は自分の地位を確固たるものにする為に、エステルと婚約していた。
だから、ゆくゆくはナタリアを僕の情婦にでもしたいと思っていた。
ナタリアに隙を見ては話しかけた。
何を考えているか分からないが、僕に興味を持っているようにも見えた。
ナタリアが頻繁にマテリオの元を訪ねていると聞いた時には、エステルの影を感じた。
彼女は僕がナタリアに惹かれているのに気がついて、僕が彼女から興味を失うようにマテリオに接触させたのだろう。
そうでなければ、頻繁に皇宮を訪れるナタリアをエステルが咎めもしない訳がない。
「ナタリア⋯⋯僕たち別人に生まれ変わらないか? 他国の戸籍を買ったんだ」
「マテリオ、私はあなたと一緒にいられるならば自分が誰だとかどうでも良いわ」
2人は寄り添いながら、中庭で愛を語らっていた。
ナタリアは確かにガレリーナ帝国にいる限りは永遠に大罪を犯し没落した父親と娼婦の娘だ。
彼女の美しさと独特な雰囲気に惹かれる男はいても、彼女と結婚しようという男はない。
マテリオがガレリーナ帝国の皇子という立場を捨ててまで、ナタリアと一緒にいるという道を選ぼうと思っているのが気になった。
帝国の皇子という恵まれた立場を失っても、ナタリアと一緒にいたいと思っているマテリオは僕の知っている人嫌いの彼ではなかった。
僕がナタリアと話したのは数えられる程度だ。
僕が彼女に関わる度にエステルが面倒な嫉妬をするから会話の機会が持てなかった。
僕は彼女の美しさに惹かれ情婦にしたいとは思っていたが、全てを捨ててまで彼女と添い遂げたいとまでは考えていなかった。僕にとってあくまで重要なのは皇帝になることだ。
ナタリアとマテリオが急速に仲を深めていた事に不快感を覚えていた時に、エステルの弟サントスが僕に急ぎの謁見申請をしてきた。
「姉上が⋯⋯ナタリアにマテリオ皇子殿下を殺すように命令していました⋯⋯ダニエル皇子殿下、彼女は姉上には逆らえません。いくら血筋卑しきマテリオ皇子殿下でも、皇族です。皇族暗殺は極刑ですよね」
唇を振るわせ真っ青な顔で僕に漠然と助けを求めるサントスは心底ナタリアに惚れているのだろう。
僕はナタリアに対して美しくて側におきたいという気持ちはあっても、彼女の為に何かしたいとまでは思ってなかった。そもそも僕は人の為に何かしたいなどと考えた事は1度もない。
他人は誰よりも上にあるべき僕をあるべき場所に連れていく道具だと思っていた。そして、ナタリアは輝かしい僕の人生に彩りを与えてくれる存在だと感じていた。
「マテリオを殺す大義名分があれば良い⋯⋯」
僕が呟いた言葉を瞬時に理解できないサントスは貴族としては純粋過ぎる。
僕はサントスに目の上のたんこぶであるオスカーごとマテリオを消す計画を話した。
サントスは僕の計画に震えるが、意義を唱える勇気もない。
おそらく、彼はエステルに僕の話した事を伝え彼女が僕の意を汲み取り勝手に動いてくれる。
エステルは本当に便利な女だった。
僕はサントスを通してエステルの計画を知り、隠し通路の出口へ急いだ。
そこで見たのは脇腹を刺され意識を失ったナタリアを必死に止血する血まみれのマテリオだった。
僕の姿を見るなり命の危険を察したマテリオはその場を去った。
そこで、目を開けたナタリアは僕に一目惚れ以上の不思議な感情を与えた。
ひたすらに美しい顔でキノコを求める彼女に心臓を鷲掴みされた。
非常に卑猥な隠語を連発して僕を誘惑するような素振りを見せながら、なぜか素っ気ない彼女の事が気になって仕方なかった。
掴みどころのない彼女に駆け落ちまで決心させたマテリオを恨めしく思った。
それからずっとナタリアの事を考えていた。
全裸で跪かされても気丈に振る舞う彼女がいじらしくて僕は堪らない気持ちになった。
誕生日にナタリアに会えない事を嘆いていると、僕は舞踏会会場に彼女の姿を見つけた。
いつもと違って美しく着飾った彼女はまるで女神のようだった。
「殿下、こちらを見てください。あなたの生涯の伴侶は私ですよ。ねぇ、殿下ってばぁ」
ダンス中に請うような媚びた目でエステルに見つめられて鳥肌が立った。
公式な場で誰が見ているかも分からないのに、甘ったるい声をだして擦り寄ってくる。
僕が彼女を家柄以外で唯一買っていたのは、帝国の貴族令嬢として清廉潔白で貞潔である事を重要視していたからだ。
それなのに今日の彼女は体が熱くなってきただの安っぽい売女なようなアピールをしてくる。
はっきり言って、不快で見てられない。
僕は一曲目が終わるなり、早々エステルの元を離れてナタリアの元へと急いだ。
僕が目の前に来るなり、まるで僕の行動を予想してたかのようにナタリアが微笑む。
瞬間、彼女の全てを欲しい衝動に囚われた。
彼女が今、誰の事を考えていても構わない。
僕と関われば彼女は必ず僕に惹かれ夢中になる。
なぜなら僕は神より選ばれた次期皇帝になる男だからだ。
「ナタリア、君と踊れる幸運を僕にくれないだろうか」
彼女の瞳をじっと見つめ口説くと、そっと微笑みながら彼女は僕の手をとった。
その時、僕たちの間にエステルが割って入った。
やはり今日のエステルはどこか変だ。
このような事をすれば、悪い意味で注目を集める事が理解できない女ではなかった。
「殿下、私、今日はとっておきのプレゼントがあるのです。もう、早く殿下に差し上げたくて気持ちが昂っています」
「エステル⋯⋯」
僕は非常に困っていた。
皆が注目を集める中、婚約者である彼女を蔑ろにはできない。
それでも、僕からダンスに誘いナタリアが受けたのを皆が見ている。
「殿下、申し訳ございません。なんだか、急に寒気がしてしまい。退室しても宜しいでしょうか」
ナタリアが上手い事その場をおさめてくれた。
僕から離れていこうとする彼女の手を離せずにいると、彼女がそっと耳元で囁いた。
「お誕生日おめでとうございます。殿下⋯⋯」
耳を澄ませないと聞こえないような声で彼女が僕に伝えてくれた言葉が心に沁みた。
気が付くとナタリアはサントスに連れられて、会場の外へと出ていってしまった。
名残惜しそうに彼女の去った後を見ていると、不意に強く腕を引かれる。
「エステル、どうしたんだ⋯⋯今日の君はどうかしてるぞ」
「私は早く殿下とどうにかなりたいんです!」
今日の主役である僕を会場の外に連れ出すエステルは、本当にどうかしている。
周囲の貴族たちが困惑しているような目で僕たちを見ていた。
その中に彼女の父親であるカイラード・ロピアンもいて、僕は彼女を蔑ろにする事ができない。
腕を引かれてたどり着いたのは、彼女を何度か泊まらせた事がある客室だった。
彼女が部屋の扉を閉めるなり言いようのない恐怖に駆られる。
よく見ると彼女の目は焦点があってなく、瞳孔が開き切っていてなんだか様子がおかしい。
(何でもっと早く気が付かなかったんだ⋯⋯明らかに麻薬の類いをやっている⋯⋯)
「エステル、君は今日はもうここで休むんだ。僕は本日の主役として会場に戻らなければならない」
「殿下、私たちが婚約して10年です。ずっと殿下の為に努力して来たんです。ご褒美をください」
彼女は体をくねらせながら僕に近づいて僕をベッドに押し倒した。
彼女が自分のスカートの中に手を入れたと思うと、いよいよ怖くなってきた。
(なんだ? 下着でも脱ぐつもりか? そのようなことされたらマズいぞ)
今、僕と彼女がこの部屋に入った事を目撃した人間は多数いる。
誕生祭の場で不埒な行為に耽っていたとなったら、僕にとってはマイナスだ。
結婚前は貞操が望まれる帝国の貴族令嬢としての彼女の評判は失墜する。
皇位継承権を争う他の2人の皇子が戦線離脱している今でも、気を抜いてはいけない。
僕は少々乱暴かと思ったが、彼女を突き飛ばした。
すると、彼女はスカートの中から出した香水のようなものを僕に吹きかけてくる。
とてつもない悪臭に吐き気がする。
(本当に何を考えてるんだ!)
僕はハンカチーフで鼻と口を抑えながら必死に部屋を抜け出した。