恋は復讐の後で
「部屋は、またここを使ってくれ」
私の身柄はしばらく、ダニエル皇子が預かることになった。
そして、以前も皇宮で泊まった部屋に連れて来られる。
この部屋には私のサイズに合った服もあるから、過ごしやすい。
エステルに全裸で土下座した記憶が蘇り息が苦しくなるが、彼女に復讐を果たせた事を思い出し気持ちが落ちついた。
ダニエル皇子は務めて柔和な表情を見せているが、明らかに冷や汗をかいている。
彼の婚約者であるエステルは確かに失態を犯した。
しかし、婚約も破棄したし彼にそこまで火の粉が掛かるとは思えない。
実際にゲームの中でもダニエル皇子はエステルと婚約を破棄した後に皇帝まで上り詰めている。
(もしかして、オスカー皇子が目覚めた事で焦ってる?)
「そ、そうだオスカーを治療してくれてありがとう。聖女の力を持っていたんだな、ナタリア。何か褒美をあげないとな」
口ではお礼を言っているが、「余計な事しやがって」とダニエルの顔にはかいてあるような気がした。
オスカー皇子は皇后の息子である上に帝国民の人気があるから、皇位継承権争いでは一番先をいっていた。
ゲームでは全てのルートでダニエルが皇帝になっていたから、そこまで焦らなくても運命は変わらない気がする。
まあ、皇位継承権争いなど私には無関係なことだ。
今は、侯爵邸に置いてきた大切なキノコが私が皇宮に来たことで、捨てられてしまうかもしれない危機的状況だ。
「褒美など入りません。当然のことをしたまでです。ダニエル皇子殿下、ロピアン侯爵邸の部屋に荷物を取りに行かせてください」
私の提案にダニエルが首を傾げた。
「欲しいものがあったら、何でも新しく買ってあげるよ」
「いえ⋯⋯お金では買えない大切なものを取りに行きたいのです」
「何だ? マテリオとの思い出の品とかなのか?」
急にダニエル皇子の顔が鋭くなり、私は手首を掴まれ壁に追い込まれた。
まるでマテリオに嫉妬しているかのような彼の行動と表情が演技がかって見える。
「違います! 麻袋に入った摘みたてのキノコです。キノコ狩りが趣味なんです⋯⋯」
本当はキノコを集めるのではなく、研究するのが趣味だ。
しかし、そのような研究をしている事を明かしてしまうと、エステルの件を疑われてしまうかもしれない。
「ふっ、ナタリア⋯⋯君は本当に掴みどころのない人だ。キノコの入った麻袋だね。すぐにでも取りに行かせるから、今日は休むと良い」
そう言って私の額に口づけをしてダニエル皇子は去って行った。
彼は一見落ち着きを装っているが、明らかに焦っている。
それにしても、既に私の知っている『トゥルーエンディング』のストーリーとは変わってきてしまった。
ラリカが持っているはずの特別な力である聖女の力を、なぜか私が持っていた。
そして、ラリカ登場時には毒により衰弱して死んだオスカー皇子は回復した。
さらに、ゲームの終盤で聖女のラリカへの嫌がらせで断罪されるエステルは、既に詰んでいる。
聖女の力があれば大罪人と娼婦の娘でも少しは尊重される人生が送れるかもしれない。
熱めのお風呂に入り心を落ち着かせ、しばらくすると扉をノックする音と共にユンケルが顔を出した。
「ナタリア様、ご注文の品です。これは、俺たちの思い出の品ですね」
ユンケルが微笑みながら手渡してきたのはキノコの入った麻袋だった。
「ありがとうございます。これは私の宝物なんです」
私は思わず麻袋をギュッと抱きしめた。
麻袋から漏れるキノコの匂いが、キノコ天国だったレオノラの森を連れてきてくれたような感じがして心が休まる。
本当はこれらのキノコ薬師などの研究室を借りて研究した方が良いかもしれない。
しかし、キノコの優秀さは私の秘密にしといた方が良いだろう。
きっと、研究されて仕舞えば、エステルのおかしな行動の原因がキノコであると露見する。
それに私の今のキノコへの知識でも十分対応できそうだった。
マジックマッシュルームやママオアヒネに似たキノコは、槇原美香子の世界と同じような効能を持っていた。
エステルが耐性がなく、効きやすかったのか前世の世界より劇薬ともいえる効き目を持っている。
人体実験を上手にこなしながら、それぞれのキノコの効き目を把握して行った方が良いだろう。
私が麻袋からキノコを出しながら見惚れていると、ユンケルが吹き出したのが分かった。
「キノコ集めが趣味だとダニエル皇子殿下から伺いました。人に隠したくなるような趣味を堂々と公言して没頭できるナタリア様は素敵です。おやすみなさいませ、良い夢を」
何だか、少し引っ掛かる言葉を言い残してユンケルは去って行った。
それにしても、ダニエルが近衛騎士団長である彼にお使いを頼むなんて意外だった。
ダニエルはカイラード・ロピアン侯爵が団長をしている第2騎士団と縁が深かったように思う。
エステルに復讐を果たした事で、うっすらと思い出されてきたのはダニエルに関する記憶だ。
乙女ゲームの記憶と混同しているのか、彼が愛おしそうに私を撫でているような記憶さえ蘇ってくる。
タキシード姿のダニエルが微笑みながら私に結婚指輪をはめている映像まで脳裏に浮かんで混乱した。
私の身柄はしばらく、ダニエル皇子が預かることになった。
そして、以前も皇宮で泊まった部屋に連れて来られる。
この部屋には私のサイズに合った服もあるから、過ごしやすい。
エステルに全裸で土下座した記憶が蘇り息が苦しくなるが、彼女に復讐を果たせた事を思い出し気持ちが落ちついた。
ダニエル皇子は務めて柔和な表情を見せているが、明らかに冷や汗をかいている。
彼の婚約者であるエステルは確かに失態を犯した。
しかし、婚約も破棄したし彼にそこまで火の粉が掛かるとは思えない。
実際にゲームの中でもダニエル皇子はエステルと婚約を破棄した後に皇帝まで上り詰めている。
(もしかして、オスカー皇子が目覚めた事で焦ってる?)
「そ、そうだオスカーを治療してくれてありがとう。聖女の力を持っていたんだな、ナタリア。何か褒美をあげないとな」
口ではお礼を言っているが、「余計な事しやがって」とダニエルの顔にはかいてあるような気がした。
オスカー皇子は皇后の息子である上に帝国民の人気があるから、皇位継承権争いでは一番先をいっていた。
ゲームでは全てのルートでダニエルが皇帝になっていたから、そこまで焦らなくても運命は変わらない気がする。
まあ、皇位継承権争いなど私には無関係なことだ。
今は、侯爵邸に置いてきた大切なキノコが私が皇宮に来たことで、捨てられてしまうかもしれない危機的状況だ。
「褒美など入りません。当然のことをしたまでです。ダニエル皇子殿下、ロピアン侯爵邸の部屋に荷物を取りに行かせてください」
私の提案にダニエルが首を傾げた。
「欲しいものがあったら、何でも新しく買ってあげるよ」
「いえ⋯⋯お金では買えない大切なものを取りに行きたいのです」
「何だ? マテリオとの思い出の品とかなのか?」
急にダニエル皇子の顔が鋭くなり、私は手首を掴まれ壁に追い込まれた。
まるでマテリオに嫉妬しているかのような彼の行動と表情が演技がかって見える。
「違います! 麻袋に入った摘みたてのキノコです。キノコ狩りが趣味なんです⋯⋯」
本当はキノコを集めるのではなく、研究するのが趣味だ。
しかし、そのような研究をしている事を明かしてしまうと、エステルの件を疑われてしまうかもしれない。
「ふっ、ナタリア⋯⋯君は本当に掴みどころのない人だ。キノコの入った麻袋だね。すぐにでも取りに行かせるから、今日は休むと良い」
そう言って私の額に口づけをしてダニエル皇子は去って行った。
彼は一見落ち着きを装っているが、明らかに焦っている。
それにしても、既に私の知っている『トゥルーエンディング』のストーリーとは変わってきてしまった。
ラリカが持っているはずの特別な力である聖女の力を、なぜか私が持っていた。
そして、ラリカ登場時には毒により衰弱して死んだオスカー皇子は回復した。
さらに、ゲームの終盤で聖女のラリカへの嫌がらせで断罪されるエステルは、既に詰んでいる。
聖女の力があれば大罪人と娼婦の娘でも少しは尊重される人生が送れるかもしれない。
熱めのお風呂に入り心を落ち着かせ、しばらくすると扉をノックする音と共にユンケルが顔を出した。
「ナタリア様、ご注文の品です。これは、俺たちの思い出の品ですね」
ユンケルが微笑みながら手渡してきたのはキノコの入った麻袋だった。
「ありがとうございます。これは私の宝物なんです」
私は思わず麻袋をギュッと抱きしめた。
麻袋から漏れるキノコの匂いが、キノコ天国だったレオノラの森を連れてきてくれたような感じがして心が休まる。
本当はこれらのキノコ薬師などの研究室を借りて研究した方が良いかもしれない。
しかし、キノコの優秀さは私の秘密にしといた方が良いだろう。
きっと、研究されて仕舞えば、エステルのおかしな行動の原因がキノコであると露見する。
それに私の今のキノコへの知識でも十分対応できそうだった。
マジックマッシュルームやママオアヒネに似たキノコは、槇原美香子の世界と同じような効能を持っていた。
エステルが耐性がなく、効きやすかったのか前世の世界より劇薬ともいえる効き目を持っている。
人体実験を上手にこなしながら、それぞれのキノコの効き目を把握して行った方が良いだろう。
私が麻袋からキノコを出しながら見惚れていると、ユンケルが吹き出したのが分かった。
「キノコ集めが趣味だとダニエル皇子殿下から伺いました。人に隠したくなるような趣味を堂々と公言して没頭できるナタリア様は素敵です。おやすみなさいませ、良い夢を」
何だか、少し引っ掛かる言葉を言い残してユンケルは去って行った。
それにしても、ダニエルが近衛騎士団長である彼にお使いを頼むなんて意外だった。
ダニエルはカイラード・ロピアン侯爵が団長をしている第2騎士団と縁が深かったように思う。
エステルに復讐を果たした事で、うっすらと思い出されてきたのはダニエルに関する記憶だ。
乙女ゲームの記憶と混同しているのか、彼が愛おしそうに私を撫でているような記憶さえ蘇ってくる。
タキシード姿のダニエルが微笑みながら私に結婚指輪をはめている映像まで脳裏に浮かんで混乱した。