恋は復讐の後で
第四章 終わっていなかった復讐
「ここ、レオノラの森の近くじゃない」
「とりあえずの住まいだ。他国にもっとマシな家を買うつもりだ」
皇子として育ったマテリオが生活しているとは思えない小屋だ。
でも、部屋が1つしかなくてマテリオとずっと一緒にいられる。
彼は私の境遇に同情し、一緒に逃げると言ってくれた。
しかし、私たちは惹かれあっていても恋人同志がするような事はしていない。この狭い部屋で愛する彼と夫婦のように過ごせると思うと嬉しくなった。
「マテリオ、知ってるかもしれないけれど、エステルが処刑されたわ」
「黒幕が存命だ⋯⋯」
「黒幕って、ダニエル皇子殿下?」
マテリオがゆっくり頷く。
私がダニエルを疑い始めたのは、彼が皇帝になったあたりからだった。
(マテリオはこの時点で気がついてなのね)
それにしても、私は明らかにナタリアとして2度目の人生を過ごしている。私の無念が回帰させたのかもしれない。
槙原美香子として生きた人生でもスバルに食い物にされた情けない私。
ナタリアの人生をやり直せるなら、今度こそ愛するマテリオと共に生きたい。
しかしながら、私の中でどうしても不可解な事がある。
乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の存在だ。私が中学生の時に夢中になったゲームだが、今思えば私に人生の選択肢が他にも会った事を見せるような仕様になっている。
「誰が作ったんだろう、もしかして神様?」
「ナタリア?」
私のおかしな呟きにマテリオが反応して、私は思わず笑いながら首を振った。
(いやいや、神様じゃなくてゲーム会社の人でしょ)
もしかしたら、私のように前世の記憶を持って転生した人が作ったのかもしれない。
だとしたら、かなり私に近い人間だ。
(どんな意図で? 意図なんかなく私の人生が滑稽だったから揶揄って?)
「ナタリア、モトアニア王国の女の子の戸籍を買ってあるんだ。平民の女の子で犯罪歴もない。ただ、家が困窮して自分の戸籍を売ったらしい」
マテリオがラリカの戸籍を買ったことについて話してくる。
私は前の人生でラリカとして生まれ変わった。
贅沢な暮らしがしたくて、マテリオを捨てダニエルの元に行ったのではない。
自分がエステルからの虐めのトラウマで苦しんでいるのに、彼女がのうのうと暮らし帝国の皇后になるのが許せなかった。
ダニエルが私に興味を持っているのは感じ取ってたし、聖女の力を適切なタイミングで明かせば彼は私を選ぶと思っていた。
(本当にくだらない⋯⋯私は復讐に囚われて大切な人を失った⋯⋯)
「新しい戸籍はいらないわ。私はナタリアとして生きていきたい。他人の目なんてどうでも良いわ。あなたと私が一緒にいることが大切なの。マテリオには私の本当の名前を呼び続けて欲しい」
愛するマテリオには私のことを本当の名前で呼んで欲しい。
(「ラリカ」⋯⋯そのような知らない女の名前で私を呼ばないで⋯⋯)
『トゥルーエンディング』の主人公ラリカは私とは違う前向きで純粋な女の子だ。本当の私はネガティブな上に強かに振る舞っているつもりが、間違ってばかりの愚かな女だ。
「わっ」
気がつくとマテリオに強く抱きしめられていた。
「今日は寒いから、こうやってくっついて寝よう」
「確かに雪も降っているものね⋯⋯もっと、ぎゅっとして私を温めてマテリオ」
私の大胆な言葉に、明らかに彼は照れていた。
「ナタリア⋯⋯どうしてそのような事を言うんだ? 理性がきかなくなる」
「あなたの理性をとっぱらいたくて、わざと言っているのよ。私が計算高い女だって知っているでしょ」
本当に色々な出来事があって疲れていてたけれど、マテリオに抱かれたかった。
どうして私がナタリアとして後悔した人生を再び送れているのかなんて分からない。それでも、私は今度こそ間違わない。
1ヶ月は2人で夢のような時間を過ごした。大好きな彼とするキノコ狩り、一緒に食べるキノコ料理。好きな人と好きな事をして過ごす時間は最高に幸せだった。
髪色や瞳の色を変え新しい戸籍で暮らさなくも、マテリオと2人だけの世界で生きていけたら幸せだ。
しかし、そのような幸せな時間は唐突に終わりを告げた。
小屋の扉が突然開き、汗だくのユンケルが現れた。
「ユンケル、私を連れ戻しに来たの?」
なんとなくだが彼はダニエルの手下だ。
ダニエルの性格上、キノコアレルギーを発症させた私をただでは済まさないだろう。
「ユンケル皇宮へ帰れ。ナタリアは渡さない」
「マテリオ皇子殿下、皇宮に戻ってください。オスカー皇子が亡くなりました⋯⋯」
ガレリーナ帝国を揺るがすような大ニュースだが、まだ巷には流れていない。
おそらく事件が起こって直ぐに私たちの元に知らせに来たのだろう。
(オスカー皇子殿下⋯⋯どうして? 彼の死の運命は回避できたはずなのに)
「何が⋯⋯あったんだ?」
マテリオの声が震えている。
彼はオスカー皇子を弟として大切にしていたから当然だろう。
「とりあえずの住まいだ。他国にもっとマシな家を買うつもりだ」
皇子として育ったマテリオが生活しているとは思えない小屋だ。
でも、部屋が1つしかなくてマテリオとずっと一緒にいられる。
彼は私の境遇に同情し、一緒に逃げると言ってくれた。
しかし、私たちは惹かれあっていても恋人同志がするような事はしていない。この狭い部屋で愛する彼と夫婦のように過ごせると思うと嬉しくなった。
「マテリオ、知ってるかもしれないけれど、エステルが処刑されたわ」
「黒幕が存命だ⋯⋯」
「黒幕って、ダニエル皇子殿下?」
マテリオがゆっくり頷く。
私がダニエルを疑い始めたのは、彼が皇帝になったあたりからだった。
(マテリオはこの時点で気がついてなのね)
それにしても、私は明らかにナタリアとして2度目の人生を過ごしている。私の無念が回帰させたのかもしれない。
槙原美香子として生きた人生でもスバルに食い物にされた情けない私。
ナタリアの人生をやり直せるなら、今度こそ愛するマテリオと共に生きたい。
しかしながら、私の中でどうしても不可解な事がある。
乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の存在だ。私が中学生の時に夢中になったゲームだが、今思えば私に人生の選択肢が他にも会った事を見せるような仕様になっている。
「誰が作ったんだろう、もしかして神様?」
「ナタリア?」
私のおかしな呟きにマテリオが反応して、私は思わず笑いながら首を振った。
(いやいや、神様じゃなくてゲーム会社の人でしょ)
もしかしたら、私のように前世の記憶を持って転生した人が作ったのかもしれない。
だとしたら、かなり私に近い人間だ。
(どんな意図で? 意図なんかなく私の人生が滑稽だったから揶揄って?)
「ナタリア、モトアニア王国の女の子の戸籍を買ってあるんだ。平民の女の子で犯罪歴もない。ただ、家が困窮して自分の戸籍を売ったらしい」
マテリオがラリカの戸籍を買ったことについて話してくる。
私は前の人生でラリカとして生まれ変わった。
贅沢な暮らしがしたくて、マテリオを捨てダニエルの元に行ったのではない。
自分がエステルからの虐めのトラウマで苦しんでいるのに、彼女がのうのうと暮らし帝国の皇后になるのが許せなかった。
ダニエルが私に興味を持っているのは感じ取ってたし、聖女の力を適切なタイミングで明かせば彼は私を選ぶと思っていた。
(本当にくだらない⋯⋯私は復讐に囚われて大切な人を失った⋯⋯)
「新しい戸籍はいらないわ。私はナタリアとして生きていきたい。他人の目なんてどうでも良いわ。あなたと私が一緒にいることが大切なの。マテリオには私の本当の名前を呼び続けて欲しい」
愛するマテリオには私のことを本当の名前で呼んで欲しい。
(「ラリカ」⋯⋯そのような知らない女の名前で私を呼ばないで⋯⋯)
『トゥルーエンディング』の主人公ラリカは私とは違う前向きで純粋な女の子だ。本当の私はネガティブな上に強かに振る舞っているつもりが、間違ってばかりの愚かな女だ。
「わっ」
気がつくとマテリオに強く抱きしめられていた。
「今日は寒いから、こうやってくっついて寝よう」
「確かに雪も降っているものね⋯⋯もっと、ぎゅっとして私を温めてマテリオ」
私の大胆な言葉に、明らかに彼は照れていた。
「ナタリア⋯⋯どうしてそのような事を言うんだ? 理性がきかなくなる」
「あなたの理性をとっぱらいたくて、わざと言っているのよ。私が計算高い女だって知っているでしょ」
本当に色々な出来事があって疲れていてたけれど、マテリオに抱かれたかった。
どうして私がナタリアとして後悔した人生を再び送れているのかなんて分からない。それでも、私は今度こそ間違わない。
1ヶ月は2人で夢のような時間を過ごした。大好きな彼とするキノコ狩り、一緒に食べるキノコ料理。好きな人と好きな事をして過ごす時間は最高に幸せだった。
髪色や瞳の色を変え新しい戸籍で暮らさなくも、マテリオと2人だけの世界で生きていけたら幸せだ。
しかし、そのような幸せな時間は唐突に終わりを告げた。
小屋の扉が突然開き、汗だくのユンケルが現れた。
「ユンケル、私を連れ戻しに来たの?」
なんとなくだが彼はダニエルの手下だ。
ダニエルの性格上、キノコアレルギーを発症させた私をただでは済まさないだろう。
「ユンケル皇宮へ帰れ。ナタリアは渡さない」
「マテリオ皇子殿下、皇宮に戻ってください。オスカー皇子が亡くなりました⋯⋯」
ガレリーナ帝国を揺るがすような大ニュースだが、まだ巷には流れていない。
おそらく事件が起こって直ぐに私たちの元に知らせに来たのだろう。
(オスカー皇子殿下⋯⋯どうして? 彼の死の運命は回避できたはずなのに)
「何が⋯⋯あったんだ?」
マテリオの声が震えている。
彼はオスカー皇子を弟として大切にしていたから当然だろう。