恋は復讐の後で


 階段を降りて、地下牢に潜る。
 私は、これから私のオスカーを1度殺したエステルを尋問しに行く。

 松明を持った従者を連れて地下への階段を降りると、鉄格子の奥に不貞腐れもたれかかったエステル嬢がいた。

 彼女のトレードマークであるたて巻きロールはなく、処刑に備えて髪を短く切られている。肌艶も悪く目の下にはクマがあり、帝国一裕福な侯爵家の令嬢だった面影はない。

「エステル様、ご機嫌如何ですか?」
 優雅に挨拶をすると、エステル嬢は助けが来たとばかり鉄格子まで近寄ってきた。

「リオナ様、聞いてください。私はナタリアに嵌められたんです。怪しいキノコの香水、きっとあれのせいだわ?」

 ナタリアとは凄い子だ。
 キノコで麻薬のような効果のある香水を作れるらしい。
 エステルの体内からはサイロシン、サイロシビンといった麻薬成分が検出されたと聞いている。
 そして、エステル嬢は当たり前のように被害者面をしているが彼女がナタリアを痛ぶっているのは有名な話だ。
 ナタリアは、やられっぱなしじゃなくて、しっかりお返しする女だったようだ。
 彼女の気持ちは理解できる。
 私も自分が前に進む為にも報復することには賛成だ。
 
「それは、乱行騒ぎの事ですか? あなた様が今投獄されているのは皇族暗殺未遂の罪ですよ。まあ、あれだけ醜態を晒したら令嬢としては死んだも同然ですが」

「オスカー皇子殿下のことですが、違うのです。何か誤解があるかと⋯⋯それに、今、殿下は生きてますよね。疑いがかかっただけで死罪だなんて⋯⋯」

 ここに来てまで自分の状況を理解できず、言い逃れをするエステル嬢に呆れた。

「どなたも、エステル様の減刑を申し出てくださらなかったのですね。ご両親も、ダニエル皇子殿下もここに会いにきてもいない。それが、エステル様のこれまでの人生の結果です。ところで、毒を盛ったのはエステル様の判断ですか?」

 私はダニエル皇子の指示で彼女が動いたのではないかと疑っていた。
皇族である彼を糾弾するには証言が欲しかった。
しかし、エステル嬢は頑なに口を閉した。

(もう、時間の無駄ね)

「リオナ様、わ、私は⋯⋯」
 エステル嬢が口を開いた途端、私は隣にいた従者から松明を受け取り彼女の口に突っ込んだ。


「うい、うが⋯⋯」
 松明の炎が彼女の口の中を燃やす。

「あら? 口の中で松明の炎を消すパフォーマンスを以前モトアニア王国で見たのですが、結構難しいんですね」

「あ、あ、たまおかし⋯⋯」

どうやら、エステル嬢は喉が焼けてしまいしゃべれないようだ。
「今から、あなたを拷問します。喉が焼けてしまって喋れないのなら、血文字で黒幕を明かしてくださいね」

 私はエステル嬢の爪を剥がし、目を針で刺し彼女を拷問した。
 エステル嬢は恐怖のあまりか漏らしてしまった。

 結局、彼女は誰の名前も吐かなかった。
 もしかしたら、恐怖で脳が萎縮し思考停止していただけかもしれない。


「あら、何だか臭いますね。誕生祭の時も悪臭の中でご乱行なさっていたそうだから、このままでも良いでしょう。処刑は5日後です。では、ご機嫌よう。食事はその喉だと食べられませんでしょうし、キャンセルしておきますね」

 私は地下牢を後にした。

 そして、私の予想通りおそらく全てはダニエル皇子の思惑通り進んでいた。
 彼を疑っていたのに何の対策もせず、オスカーを永遠に失ったのは私の罪だ。
 
 地獄の業火で焼かれ続ける事など怖くも何ともない。
 怖いのは愛するオスカーと永遠に会えない事だ。
 彼がここにいなくても、彼の目指した帝国を実現したいと思った。
 そうすることで、ここに彼がいなくても彼の足跡が存在する。

 私は今までのことをナタリアに明かした。
 彼女は自分がラリカであること、そしてキノコの件まで明かしてくれた。
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