恋は復讐の後で

side-ダニエル

 ナタリアにを引っ叩いた瞬間、僕は過去を思い出した。ダニエル・ガレリーナは彼女と結婚をしていた。
 
 ナタリアはラリカとして生まれ変わり、また僕の前に姿を現したのだ。
 茶髪に薄茶色の瞳、名前を変えても僕にはすぐに分かった。
 思っていた以上に、僕は彼女のことを良く見ていたみたいだ。

「ダニエル皇子殿下、お優しいですね。私、殿下のこと⋯⋯申し訳ございません。殿下にはエステル様がいらっしゃいますのに⋯⋯」
 ナタリアがマテリオよりも自分を選んでくれたのだと僕の心は高揚した。
 彼女の為にエステルを断罪した。
 
 エステルは便利な女だったが、ナタリアが彼女がいると苦しむ。
 僕は初めて他人の為に動いた。
 
 その後は地獄だった。
 エステルを聖女ラリカに対する嫌がらせにより身分を剥奪し国外追放にするとナタリアは僕への興味を失った。
 そもそも、彼女はエステルへの当てつけに僕に言い寄っていただけだったと薄々気がついてきた。
 
 皇帝になると直ぐに彼女と結婚した。
僕と同等の地位、帝国一の女性の地位を彼女に与えてやった。

それでも、彼女の心は手に入らなかった。
初夜に、僕に抱かれながらマテリオの名前を呼ぶ彼女を見て絶望した。
 彼女は自分の失態に気がついてもいなかった。

 彼女といると虚しくなった。
 どうして世界一尊重されるべきが、このような惨めな気持ちになるのか理解できなかった。

 彼女は最低だ。
 そして、自分が残酷で、僕をどれだけ傷つけているかに気づいてさえいない。

 僕は彼女を避けるようになった。
 彼女の持っている地位も名誉も僕の与えたものだと気がついて欲しかった。
 僕の存在がなければ、彼女は聖女の力はあっても只のメイドだった。
 
 ふと黒髪に紫色の瞳をしたメイドを見かけた。
 (ナタリアと外見は似てないが⋯⋯彼女より従順だ⋯⋯)
 僕はそのメイドを自分の専属メイドにし、ナタリアだと思って抱いた。

 そして、その愚行は寝室に来たラリカに扮したナタリアによって暴かれた。
 僕は、自分の情けない姿を見られたことに狼狽した。
 しかし、彼女は僕を責めるだけだった。

 ガレリーナ帝国には珍しい黒髪の女を抱いている僕をの苦悩を察してくれない彼女に失望した。
 僕は彼女に自分は彼女の正体に気がついている事を明かした。
 そして言うべきではないと分かっていたのに、エステルへの当てつけに僕に近づいたことを責めた。
 負け惜しみのように僕もマテリオへの当てつけで彼女と一緒になっただけだと伝えた。

 マテリオなんて、当の昔に暗殺していた。
 血筋の卑しい彼に対抗意識など、ナタリアが彼を愛さなければ持たなかった。
 でも、ナタリアにマテリオを忘れて僕を愛して欲しいとは言えなかった。
 彼女に散々プライドを傷つけられたけれど、それでも僕は皇帝だ。
 競合相手の兄弟を殺し、他人を脅し、帝国一⋯⋯世界一の地位の男になった。
 その隣に居られる幸福に感謝もせず、いつまでも死んだ男を思い続ける彼女が全部悪い。

「私と離縁してください⋯⋯」
 信じられない事にこれだけのものを与えてやっても彼女は僕から離れようとしている。
 マテリオが死んだことを教えれば、泣き崩れるだろう。
 そのような彼女を慰めれば、そのうちに彼女の気持ちが手に入るかもしれない。
 僕の情けない願いはあっさりと裏切られた

「そう⋯⋯じゃあ、今から彼に会いに行くわ。それから、あなたも地獄に堕ちるのよダニエル・ガレリーナ」
 彼女はそう言い残すと、僕を陥れるように叫び自害した。

「う、嘘だ。ナタリア⋯⋯」
 胸を自ら突いた彼女は即死だった。
 必死に彼女に語りかけても、ぴくりとも動かない。
 僕は記憶にある限り、初めて涙を流した。


「皇帝陛下⋯⋯失礼します」
 夜間警備の騎士が入ってくる。
 僕はそっと唇を噛み、皇帝の顔をした。

「ラリカ皇后が自害した。どうやら、環境の変化のストレスか狂乱状態になるまで追い詰められていたようだ。帝国一の女性だ。もし、先程何か聞こえたとしても彼女の名誉の為に口をつぐんでくれ」
 震える声で伝えた言葉に騎士たちは、その名において口を閉ざす事を誓ってくれた。

 僕の地獄はまだ続いていたらしい。
 彼女の葬儀を初めようとした時に、棺を開けると彼女の遺体がなかった。
(なぜだ⋯⋯どうして、僕から逃げようとするんだ。こんなに好きなのに)

 僕は帝国中にラリカ前皇后の遺体の捜索をするように指示を出した。
そして、リオナ・ヨーカーが彼女の遺体を持ち出した事を突き止めた。

 リオナ・ヨーカーはオスカーが死んで以来、表舞台に出ることはなかった。
 
「リオナ・ヨーカー!」
 僕が騎士団を連れて彼女の居場所を突き止め現場に着いたときは、ナタリアの遺体は魔法陣の中央に寝かせられ魔法陣は光を放っていた。
 そして、魔術を発動させたであろうリオナ嬢は気絶している。

 ナタリアが光に包まれて、このまま消えてしまいそうに見えた。
 僕は魔法陣の中に入り、必死に彼女を抱きしめた。
(もし、生まれ変わったら、今度こそ誰より早く彼女の心を掴みたい。愛している、ナタリア⋯⋯)


 何が起きたのかは分からないが、僕は目を開けると全く違う世界の赤子として転生していた。
 ダニエル・ガレリーナとして生きた記憶と、ナタリアへの強い感情を持ったまま⋯⋯。



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