恋は復讐の後で
「傷は治ったよ。君の心の傷は治せないかもしれないけれど⋯⋯マテリオのこと本当に好きになってしまったのか? 彼は女の扱いが上手いから、君のような子を誑かすなんて造作もないだろうな⋯⋯」

 ダニエル皇子はそういうと、私の額に口づけをしてきた。
 私には目の前の彼の方が、私を誑かそうとする悪い男に見える。

 マテリオが女の扱いがうまいなんてゲームの中でも思った事がない。
 むしろ、見た目は良いのに性格が残念なせいで女からは疎まれそうな感じだった。

 ダニエル皇子は愛おしそうに私を見つめ、優しく私に触れてくる。
(まさか、ダニエル皇子に新宿ナンバーワンホストが憑依してるんじゃ⋯⋯絶対、引っかかるものか)

「聖水は、いらないと申し上げたはずです。私を助けるのも、私が愛するのもキノコだけです。では、ここで失礼します」

 私が立ち去ろうとすると、ふと、体が浮く感覚を覚えた。
 ダニエル皇子が私をお姫様抱っこしている。

「おろしてください。私には足があります。殿下の助けはいりません」
「キノコを愛でられれば良いって? そうやって、マテリオの事も誘惑したの? 僕もまんまと君に誘惑されたよ」
 ダニエル皇子が何を言っているのか、全く理解できなかった。

 そして、先程彼は私がマテリオ皇子に誑かされた可能性を話していたのに、今は逆のことを言っている。
(ナタリアが、マテリオ皇子を誘惑? 暗殺ではなくて?)

 ダニエル皇子は笑いながら、私を馬に跨らせ自分はその後ろに乗る。
 私を抱きしめるように馬の手綱を握っていて、その距離の近さに緊張した。

「どこに連れて行く気ですか? 家に帰してください」
「本当にあの家に帰る気? また、虐められるよ。僕の側にいれば守ってあげるよ」
 後ろから、耳元で低い声で囁かれ空気のわずかな振動に体がびくついた。
 大事なアマドタケを落としてしまわないように、そっと首元から服の中に入れる。

「私を守れるのはキノコだけです。殿下は必要ありません」
「僕のキノコも君を守りたいみたいなんだ。君にも愛でられたいみたいだよ。ふっふっ」

 ダニエル皇子は自分で言った言葉に自分でうけて楽しそうに笑っている。
 彼のキノコとは何だろうか。
 私は前世で自分の部屋に残して来たキノコたちに思いを馳せた。
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