翠くんは今日もつれない【完】
「黛(まゆずみ)さん。気安く触るの、やめてください。あたし、もうあなたの彼女じゃないので。」



頭を撫でる黛さんの手を払い除けると口調を強めてきつく睨みつける。本当は怒鳴りつけてやりたい気持ちでいっぱいだけど、、あたしのせいでこの場を白けさせるのは気が引けるからなるべく声は抑えた。


黛さんは少し驚いたような顔をして払い除けられた手をじっと見つめていたけど「ああ。ごめん、ごめん。急に撫でられるのは嫌だったよね」とまたすぐに柔和な微笑の仮面を付け直す。

いっそ、黛さんがあたしの態度にキレて別の席に移動してくれれば話は早いんだけど。どうやら黛さんからはこの席から退く気は微塵もないらしく、なかなか一筋縄ではいかないみたいだ。


はぁっと深いため息を吐いて、不意に視線を落とすと黛さんの左手薬指の方にくっきりと残る綺麗な一本線の日焼け跡が目に入る。黛さんは隠しているつもりかもしれないけど、その日焼け跡で、左手薬指にはいつもキラリと輝くプラチナリングが身につけられていることが容易に分かった。


結婚してるのをわざわざ隠してまで合コンに来て若くて馬鹿な女漁りですか。

あなたって相変わらず最低ですね。


昔と変わらないクズっぷりに黛さんに対する嘲笑が思わず溢れ出る。


この男、黛慧悟(まゆずみ けいご)はあたしの最悪な恋愛黒歴史の筆頭とも呼べるような人で今すぐにでも記憶の中から抹消したい最低な過去だ。
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