翠くんは今日もつれない【完】
「羽依ちゃん、どこ行くの?」

「…………御手洗に。」

「そっか。ちゃんと戻ってくるんだよ」



誰が戻ってくるかよ。ばーか。

内心、黛さんに向かって悪態を吐きつつ、脇に置いていたバックを持って席から立ち上がると御手洗に行くフリをして居酒屋から出て行く。



「あ。よっしーにLINEしなきゃ」



黛さんに勘づかれないように合コンに誘ってくれた友人のよっしーにも黙って出てきちゃったからバックからスマホを取り出して《よっしー、ごめん!なんか急に体調が悪くなっちゃったから、あたし帰るね。お代は後日、必ず払うので!》と謝罪のメッセージを送る。

送信したメッセージにはすぐに既読がついて《大丈夫だよ!お大事にね!》と返信がきた。


よし。これで万事解決だ。


安心した途端、ぐううっと腹の虫が鳴って空腹を知らせた。居酒屋では黛さんのせいでマトモに食べ物を口にできてなかったし、コンビニにでも寄って帰るかー、なんて呑気に考えながら歩きだそうとして、、



「───羽依ちゃん。」



あたしを手首を掴んで呼び止める声に思わず身体が強ばる。恐る恐る振り返るとそこには相変わらず柔和な微笑みを浮かべて、、けれども目は一切笑っていない黛さんがいて「ひっ、」と小さく悲鳴を上げた。
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