翠くんは今日もつれない【完】
「……。俺は別に、」

「───へぇ、お前らオニーサマ抜きで楽しそうな話してんじゃん」



突然、私とは別の低い声が翠の言葉を遮るように被さった。その声の主は自分を真ん中にする形で私達の肩を組んできて「ずりぃわ、俺も混ぜてよ」と色素の薄い瞳を細めて、うすら笑いを浮かべる。



「……美緑(みろく)、香水臭いんだけど。」



ツンっと鼻の奥を刺激する女物の甘ったるい香水の匂いに鼻を摘んで抗議するけど「マジ?彼女から借りたヤツなんだけど、そんなに臭かった?ごめんごめん」なんて全く謝罪する気のない返事が来て呆れた眼差しを向けた。


趣味の悪い柄物のシャツを身に纏って、左耳にだけ着けられた銀色のピアス。アッシュブロンドに染めた長めの前髪をセンターパートに分けた治安の悪いこの男の名は、吉野美緑(よしの みろく)。


我が兄弟の長子で、私の双子の兄、、つまり私の片割れだ。



「美緑、あんたが帰ってくるなんて珍しいわね。いつも彼女かセフレの家に入り浸ってるのに」

「いやー、聞いてよ碧心りん。それがさ、彼女に浮気したのバレて家から追い出されちゃったんだよね〜」



因みにこれはそん時に殴られた跡ね、と右頬にくっきりと残る手跡を指さして「俺、顔しか取り柄ないのに酷いよね」と悪びれることなくケラケラと笑う。

そんな女にだらしなさ過ぎる長兄に、恋愛面において一途で潔癖な翠は「マジで最悪。早く地獄に落ちればいいのに。」と嫌悪感を露わにして顔を顰めた。


翠の言う通り美緑は早く地獄に落ちればいいと思う。いや、私が落とす。
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