翠くんは今日もつれない【完】
「───小柴羽依ちゃん」
不意に美緑の口から出てきた私の親友の名前に翠の片眉がピクリと僅かに動く。それは他の人では気づかないような些細な変化だ。だけど、目敏い美緑がそれを見逃すはずはなくて、続けるように口を開く。
「って、綺麗な子だよなー。俺、結構タイプでさ。翠が羽依ちゃんのこと好きじゃないなら、俺狙っちゃおうかなー。ねぇ、碧心りん、あの子の親友でしょ?連絡先教えてくんない?」
そう言うと美緑はへらりと軽薄な笑みを浮かべた。私は吉野美緑という男ともう何十年も兄弟をやっていてそれなりにこいつのことを理解している。
だから美緑の仕草とか話し方とか言葉のニュアンスで、今のは本気じゃないってすぐに分かった。
それは翠にだって容易に分かるはずだ。
はずなんだけど、どうやら翠は羽依のことになると冷静ではいられなくなるらしい。
「あの人には手ぇ出すな。」
不意に美緑の口から出てきた私の親友の名前に翠の片眉がピクリと僅かに動く。それは他の人では気づかないような些細な変化だ。だけど、目敏い美緑がそれを見逃すはずはなくて、続けるように口を開く。
「って、綺麗な子だよなー。俺、結構タイプでさ。翠が羽依ちゃんのこと好きじゃないなら、俺狙っちゃおうかなー。ねぇ、碧心りん、あの子の親友でしょ?連絡先教えてくんない?」
そう言うと美緑はへらりと軽薄な笑みを浮かべた。私は吉野美緑という男ともう何十年も兄弟をやっていてそれなりにこいつのことを理解している。
だから美緑の仕草とか話し方とか言葉のニュアンスで、今のは本気じゃないってすぐに分かった。
それは翠にだって容易に分かるはずだ。
はずなんだけど、どうやら翠は羽依のことになると冷静ではいられなくなるらしい。
「あの人には手ぇ出すな。」