翠くんは今日もつれない【完】
本日二度目の大声に翠くんは「ねぇ、本当にうるさい。あんた学習能力ないわけ。」と耳を塞ぎながらあたしを非難する。



「ご、ごめん…って、そうじゃなくてっ!」



サラッと言われたから普通に聞き逃しちゃいそうになってたけど、、



「かっ、可愛いって言ったの!?あたしのことを!?」

「言ったけど、それがなに?」



詰め寄るあたしにうざったそうに顔を顰めながら答える翠くん。とてもさっきあたしのことを可愛いって言ってた人の態度だとは思えないけど、どうやら聞き間違えではなかったらしい。


自分で言うのもなんだけど、あたしは容姿がいい方らしく、可愛いとか、綺麗とか、割と言われ慣れてる。


はず、なんだけど。


翠くんに『可愛い』って言われると、嬉しくて心が浮き立つのは何故だろう。



「っ、す、翠、くん。誰にでも、可愛いって言っちゃ駄目だよ。翠くんは、顔がいいから、勘違いしちゃう子だっているだろうし。それに、聞こえちゃったんだけど、翠くん好きな子いるんでしょ。その言葉は、、好きな子にだけ言わないと、」



自分で口にしといて、胸にモヤモヤが募っていく。翠くんには好きな子がいる。そう、好きな子がいるんだ。変な勘違いするな、あたし。



「はあ、、ここまであんたが鈍いとは思わなかった。」



深い深い溜息と共に呆れたような言葉が零れ落ちて、意味が分からず「えっ?」キョトンとしていると、いつの間にか翠くんの美しい顔が視界いっぱいに広がる。


途端に鼓膜を揺らすリップ音。

そして、唇と唇が触れる感触。



「馬鹿で鈍感な羽依さんでも、、流石に理解できたでしょ?」

「……」

「俺が可愛いって言うの、思うのも、羽依さんだけだよ」

「……っ、」
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