翠くんは今日もつれない【完】
はあ、はあ、っと少し歩いただけで息が上がる。


頭が凄く痛いし。

身体は鉛のように重いし。


病院で点滴を打って貰って多少は楽になったけども、やっぱり、きついもんはきつい。


そういえば、あたし、、体調悪いくせにどうしてこんな重いもの持ってるんだっけ。

あ、そうだ。

今、うちに何もないから病院行ったついでに色々と買ってきたんだ。


だけど、よくよく考えてみれば、碧心とか、友達に頼んで買ってきて貰えば良かったよね。それかウーバーとか使えば良かったよね。


あたしってば、馬鹿だなぁ。



「(あー、、どうしよ。全然頭回らないや)」



高熱のせいで、思考が上手く纏まらないし、足取りがおぼつかない。



「あ、」



そのうえ、背中が人にぶつかってしまって、バランスを崩して、その場に膝をついた。


途端に、持っていた袋もドサッと地面に落っこちるて、ペットボトルが袋の中から飛び出して、そのままコロコロと転がっていく。


それを拾おうと手を伸ばすけど、全然届かない。


更にぐっと伸ばしてあと少しで届くかもしれないってところで、反対方向から伸びてきた手がペットボトルを軽々と拾い上げて、あたしに差し出す。



「あ、ありがとう、こざいま、」



ペットボトルを受け取って掠れた声でお礼を言いながら顔を上げる。すると、見慣れたヘーゼル色の瞳と視線がかち合って、あたしは驚いて目を見開いた。



「翠、くん」

「ねぇ。顔赤いけど、、もしかして、熱?」



翠くんはあたしの前に片足をついてしゃがみ込むと、しなやかな長い指が汗で張り付いた前髪を器用に払い除けて額に触れる。

あ。これ、冷たくて気持ちいいかも。



「あっつ…。あんたよくこの状態で外出れたね。」

「すい、く、」

「馬鹿なの。あんた。」



はあ、と深いため息と吐くと共に呆れた顔をする翠くん。ぶっきらぼうな口調の割に心配そうな眼差しをあたしに向ける翠くんに何だか安心して。



「っ、うい…!」



そして、、限界寸前だったあたしの身体は力が抜け落ちて、気がつけば、意識を手放していた。
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