翠くんは今日もつれない【完】
ヘーゼル色の瞳が大きく見開かれたと共に、唇はすぐに離された。そして、何故か翠くんの表情がみるみるうちに険しくなっていく。



「あ。ごめ、」



もしかしたら、翠くん怒っているのかも、、と謝ろうとするけど、後に続く言葉は途切れてしまった。



理由は、、

翠くんが突然、あたしを抱き締めたからだ。



翠くんの腕の中に収まったまま「えっと、翠、くん⋯?」と呼び掛けるけど、翠くんはあたしの肩に顔を埋めたまま、全く応答しようとしない。心無しか熱を出してるあたしよりも翠くんの体温の方が高い気がする。



「翠くん。ねぇ、翠くんってば、」

「何。」

「あ、今度は返事してくれた」

「あんたが執拗く呼ぶから。で、何。」

「いや、急にどうしたのかなーって⋯」

「⋯⋯⋯我慢してた。」

「我慢?」



翠くんは何を我慢してるんだろう、と首を傾げた。すると、あたしの肩に埋めていた顔を上げて、熱の籠った瞳であたしを捉える。



「羽依さんにキスしたいの、我慢してた。」

「え、」



「でも、無理そう。」



何か言葉を発するよりも早く、無防備なあたしの唇を、まるで食らいつくように翠くんの唇が塞いだ。
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