翠くんは今日もつれない【完】
「⋯⋯また、翠くんを穢したくなかったの、」



翠くんにたくさんあやされて、泣き止んで、ようやく、しぼりだした言葉。

ずずっ、と鼻水を啜る。



「穢す?俺を?」



あたしに抱き締められたままの翠くんが、あたしの長い髪を撫でながら聞き返す。声色も手つきも凄く優しい。

そんな些細なことに気づいて、いちいち、胸がときめいて苦しくなる。

なんだ、これ。



「む、昔、元カレとキス、してるとこ、、翠くんに見られたでしょ⋯?しかも、結構ディープなやつを、」

「⋯あったね、そんなことも。」

「あたし、綺麗で純粋な翠くんを穢してしまったと思ったの。⋯⋯しかも、翠くんは小さい頃からあたしのこと好きでいてくれたのに、嫌なものたくさん見せちゃって、たくさん傷つけてたよね。ごめんね、ずっと、」



言葉にすればするほど、あたしって、相当翠くんに酷いことしてた。そんなあたしに翠くんの気持ちを受け取る資格はあるのだろうか。


そんなあたしの思考を塞き止めるように、ぐっと、肩を掴まれて身体を引き剥がされると、ヘーゼル色の瞳が静かにあたしを見据えた。


そして、恐ろしいほど、美しく微笑む。



「羽依さん。俺ね、あんたが思ってるほど、綺麗でも、純粋でもないよ」

「翠、くん⋯?」

「ねぇ、羽依さん。今度、俺とデートしてよ」

「デ、デート?」

「うん。これまでたくさん俺を傷つけたお詫びに、ね」
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