翠くんは今日もつれない【完】
「ところで、その美緑くんはどうしたの?」

「まだ寝てる」

「えっ、今日、入学式だよ?大丈夫なの、それ」

「大丈夫でしょ。遅刻しても自業自得だよ」



姉さんはツンっと冷たく顔を逸らすと「あんなやつ放っておいて、行こう」と先に玄関から出ていく。



「え、待ってよ。碧心っ」



羽依さんも姉さんの後を追うように慌てて玄関から出ようとして、ふっと、思い出したように振り返る。そして「翠くんまたねっ」と笑顔で手を振って、今度こそ出て行ってしまった。



「あれ、すーくん?まだ出てなかったの?学校遅れるよー??」



ぼーっと羽依さんの出て行った扉を眺めているとリビングから出てきた母さんに不思議そうに声を掛けられて、はっと我に返った。



「⋯うん。今、出るよ」



と、壁際に避けていた黒いランドセルを背負う。


羽依さんは今日、高校生になった。小学生から見た高校生は大人も同然で、とてもじゃないけど子供の俺が羽依さんに釣り合うはずもなかった。


羽依さんと同じ学校に通える姉さんと兄さんを何度も羨んだ。

もっと早く生まれていれば、と何度も思った。


だけど、どれだけ望んだところで、俺はいつまでたっても、あの人に追いつけないままだった。
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