翠くんは今日もつれない【完】




「───⋯⋯。」



あの人と、見知らぬ男の人が、キスしてるところを見た。

ずっと、ずっと、あの人のことを一番近くで見てきたはずなのに、俺が今まで見たことないような表情を、あの人は、その男の人に向けていた。



「翠、くん⋯?」



あの人が俺の存在に気づいて、驚いたように目を丸くする。


見てはいけないものを見てしまった気がして、その場から走り去った。遠くで「翠くん!」と俺を呼び止めようとする声が聞こえたけど、今はあの人と話したくなかった。顔も見たくなかった。







「───おえ、」



逃げるようにして家に帰ると、すぐさまトイレに籠って、さっき見てしまったものを拒絶するように、胃の中のものを全て吐き出した。
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