翠くんは今日もつれない【完】
「あ。翠くん、あのね、」

「……。」



どれだけ俺が避けても、無視しても、あの人は今日もめげずに声を掛けてきた。その度に傷ついて泣きそうな顔をするくせに。


どうして、、

どうして、そんなに俺に構おうとするのか。


よく分からなかった。



「ねぇ。」

「す、翠く───」


「うぜぇから近寄んな。」



もういっそ、俺を嫌いになって欲しかった。

あなたを傷つけてばかりの今の俺には、あなたに構ってもらうような価値なんてないんだから。



「っ、あたし、うざかったよね、」



黒真珠のような瞳に大粒の涙が溜まって、はらり、と零れ落ちる。

決定的に傷つけた、と思った。



「……もう、話し掛けないから、、ごめんね、翠くん、」



ポロポロと流れ続ける涙を袖で強引に拭うと、あの人は無理やり笑顔を作って去って行く。


華奢な肩が、遠くで震えている。だけど、俺はあの人を追いかけなかった。





言葉通り、あの人が俺に話し掛けてくることも、大好きだったあの眩しい笑顔が俺に向けられることも、なくなった。


それで、いい。
それでよかった、はずなのに。


あの光景を見たとき以上に、悲しくなったのは、、何故だろう。
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