翠くんは今日もつれない【完】
ふたり並んで歩く帰り道。家に着けば、翠くんとお別れしてしまう寂しさを紛らわせるように、恋人繋ぎしてる手を、ぎゅ、と握ると、翠くんも同じように握り返してくれた。

そんな些細なことすら、愛おしく感じる。



「───あのね、翠くん」



ピタ、と足を止めて、話を切り出した。
翠くんも同じように足を止めて「なあに」と真っ直ぐにあたしを見つめてくる。

どきどき、と心臓が早鐘を打つ。

さっきは言えたあの言葉を、改めて言おうとするとものすごく緊張した。

心臓が口から飛び出そうだった。


ぎゅ、と瞼を閉じて、スーハー、スーハーと何度か深呼吸をして、ようやく、騒がしかった心音も落ち着いた。


よしっ、、

と、気合いを入れて、再び瞼を開くと意を決して口にする。



「あたしね。翠くんのこと、好き。大好きだよ。親友の弟じゃなくて、ひとりの、男の子として」

「……。」

「返事、待たせちゃってごめんね。まだ、翠くんの気持ちが変わってないのなら、あたしを翠くんの彼女にしてほしいです、」



言い終えると翠くんは繋いだままの手を自分の方へと引いて飛び込んできたあたしの身体を強く抱き締めて受け止める。そして、あたしの肩に顔を埋めて「夢、じゃないよな」と掠れた声が、ぽつり、呟いた。



「夢じゃないよ。ほっぺ抓ってあげようか?」

「ん、抓って。なるべく強めに」



顔を上げた翠くんの頬をリクエスト通りに強く抓ると、白い頬に赤い跡が残る。翠くんはその跡を摩りながら「良かった。夢じゃない」と嬉しそうに笑った。
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