さよならダメ恋、またきて初恋。
第1話
○教室 (朝)
主人公の楢崎紬(こげ茶のセミロング)の隣の席に座る、結城渚(くせのない黒髪、クールな顔立ちのイケメン)が、小声でささやく。
渚「紬、ただいま」
フッと微笑む渚に、顔を赤らめる紬。
モノローグ【9月。2学期の到来と共に、私の初恋の人が転校生として戻ってきたようです】
○通学路 (9月上旬 朝)
莉紗「つーむーぎーっ、紬ってばー!」
多くの生徒で賑わう通学路を歩いて登校中の紬の背後から、彼女の親友・巴莉紗(毛先がふわふわとした金髪のボブ、猫のような目つきの綺麗な女子)が声をかける。
莉紗「おはよーっ、紬!」
振り返る紬に満面の笑みで挨拶する莉紗。莉紗の彼氏・羽瀬奏多(柔らかそうな暗めのミルクティー色の髪、メガネをかけている)も一緒にいて、紬は彼を見るなりドキッと心臓を高鳴らせて、顔を真っ赤にする。
紬「莉紗、羽瀬くんっ……! おっ……、おはよう!」
ドキドキしながら挨拶を返す紬。
そのとき、奏多が不思議そうに紬の顔をじーっと見つめる。
奏多「ん? どうかした?」
穏やかに微笑んで、首をかしげる奏多。
紬はここでハッと気づいて、あわててブンブンと頭を横に振る(←ここはデフォルメ)。
紬「なんでもない! 早く学校に行こう!」
紬、サッと顔を前に向けて、更新するように歩き出す(しかし、右手と右足が一緒に出るような歩き方)。
莉紗「紬、気合い入ってんね~っ!」
奏多「今日から2学期だからじゃない?」
楽しそうにおしゃべりをする莉紗&奏多カップルの声を聞きながら、紬ははーっとため息をついてうつむき、再び顔を真っ赤にさせる。
紬・心の声『ああ、今日もかっこいいなあ……。羽瀬くん』
モノローグ【楢崎紬。17歳。どこにでもいる平凡な高校2年生……だと思いたいんだけど、どうしてか】【私はいつも、好きになっちゃダメな人に恋をしてしまう】
【例えば、中学時代の担任の先生や、すでに片思いの相手がいる先輩、会ったこともないアイドルなどなど……】
(ここで黒髪メガネにスーツを着た男の先生の笑顔、片思いの相手を思って照れている先輩、茶髪の爽やか系アイドルがマイクを握って歌っている姿が描かれる)
【自分なりに折り合いをつけて諦めてきたけれど……】【よりにもよって、親友の彼氏を好きになってしまうだなんて……】(親友→莉紗の顔のデフォルメ、親友の彼氏→奏多の顔のデフォルメのイラストが、矢印で説明するように小さく描かれる)
がっくりと肩を落として涙を流す紬。
紬・心の声『できるなら、誰かに相談したい。でも、こんなことを人に打ち明けたら、最低だって思われそうだよな……』
モノローグ【昔はこんなんじゃなかったのにな。だって、私の初恋の人は――】
ここで顔の上半分が見切れた小学生ぐらいの男の子(小学生時代の渚)が、手を伸ばしている絵が描かれる。
○2年B組教室 (朝)
先生「えー突然だが、今日からこのクラスの仲間になる転校生を紹介する」
渚「結城渚です。よろしくお願いします」
黒板の前に立つ先生の隣に、渚が立っている(先生と渚の間には、『結城渚』という綺麗な文字が白いチョークで書かれている)。
自分の席(窓際の列の一番後ろ)に座ったまま、目と口を大きく開けてポカーンとしたまま固まる紬。
クラスの女子たちは渚に対して目をハートにして、キャーキャー騒いでいる。
クラスの女子たち「え、ヤバ!」「めっちゃかっこいい……」
紬・心の声『う、うそ……。渚くん……?』
先生「とりあえず、結城はそこ。空いてる席に座ってくれ」
紬・心の声『空いてる席って……、私の隣じゃん! どうしよどうしよどうしよ……』
目をぐるぐる回しながら焦る紬。すぐに、カタンという椅子を引く音がする。
渚「よろしく」
紬の顔を覗き込むように挨拶してくる渚。
モノローグ【サラサラの黒髪、長いまつ毛】【最後に会ったときよりも背が高くなって、顔つきも大人っぽくなってるけど、やっぱり私の知ってる渚くんだ……】
紬「あ、あのー……私のこと、覚えてる……?」
おそるおそる渚にこそっと小声でたずねる紬。
渚「え?」
紬「私、楢崎紬っていうんだけど……」
そわそわしながら思いつめた顔で渚を見つめる紬。
渚はきょとんとした顔で紬を見つめるが、フッと微笑む。
渚「覚えてるよ。生まれたときから一緒にいたんだから」
紬、ハッと息を呑む。
○(回想)
モノローグ【私と渚くんは、もともとご近所同士】【親たちも仲が良かったから、私たちはいつも一緒だった】
(赤ちゃんの紬と渚が横に並んで寝ているシーン、2~3歳ぐらいの紬と渚が公園の砂場で遊ぶシーン、楢崎家&結城家でコテージでバーベキューをするシーン、小学校の校門の前にある入学式の立て看板の横に並ぶ緊張した紬と渚のシーンが描かれる)
○(回想)紬と渚の小学生時代(1年生)
モノローグ【渚くんは頼もしくて、私にとても優しくしてくれて】
転んで泣きそうな紬に、微笑みを浮かべた渚が手を差し伸べる。
モノローグ【気づけば私は、彼のことを好きになっていた】
その手を取り、顔を赤らめて少しうつむく紬のアップ。
モノローグ【そう、これが私の初恋】
○(回想)紬と渚の小学生時代(3年生)
モノローグ【でも、いったん離ればなれになってしまって――……】
小学3年生渚『ごめん、紬。俺、お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったんだ』
小学3年生紬『え……』
はっきりと伝える渚に、彼と向かい合わせになる紬はショックを受けた顔になる。
小学3年生渚『でも、必ず戻ってくるから。また会えたら――……』
(回想終了・ここで現在に戻る)
渚「紬、ただいま」
フッと微笑む渚に、顔を赤らめる紬。(冒頭のシーン)
モノローグ【またこうして初恋の人と再会するだなんて、なんだか夢でも見てるみたいだ】
○2年B組教室 (正午 放課後)
女子たち「結城くーん! 一緒にカフェでランチしない?」「この街に引っ越してきたばかりでしょ? 案内してあげるよ」「あっ、ずるーい! あたしも行く!」
放課後になったと同時に、渚の机の周りを囲む大勢のクラスの女子たち。
だが、渚は一切興味を持たず、クールにスルー。
紬・心の声『渚くん、転校早々人気だな……。私が話しかける隙もないくらい』『せっかく再会したんだから、もっとたくさんおしゃべりしたかったけど諦めよう』
ちょっと切なげな、しゅんとした顔をしながら、帰り支度をする紬。
スクールバッグを持とうとしたところで、渚に肩をつかまれてぐいっと引き寄せられる。
渚「悪い。俺、紬と一緒に帰る約束してるもんで」
しれっとした顔で女子たちに告げる渚と、彼に密着して目を丸くしていた紬は、内心慌てる。
紬・心の声『やっ……、約束⁉ 私、渚くんと聞いてない!』(目をぐるぐる回して慌てる紬のデフォルメ絵付き)
女子たち「楢崎さん、それ本当なの⁉」「いつから結城くんとそんな約束するまで仲良くなってんの⁉」
紬「えっ……、えーと……」
渚「さ、行くぞ」
詰め寄る女子たちに紬はたじたじ。
だが、ここで渚が騒ぐ女子たちを完全スルーして、紬の肩をつかんだまま教室を出る。
○廊下
渚に肩をつかまれたまま、彼と一緒に歩きながら慌てる紬。
紬「なっ、渚くん……! 待ってよ! 一緒に帰る約束ってなに⁉ した覚えないんだけどっ……!」
渚「ああ。そうだな」
目を閉じてうなずく渚。でも、目を開けて紬に視線を向けて、
渚「でも、俺は最初から紬と一緒に帰るつもりだったから」
紬「へっ……?」
渚「いいだろ。小学生のころも毎日一緒に帰ってたじゃん」
すました表情で紬の顔を覗き込む渚に、紬は冷や汗をたらしながらも、釈然としないように唇をとがらせる。
紬「それはまあ、そうだけど……」
紬・心の声(でも、小学生のときと今じゃ事情が違うような……)
莉紗「あっ! 紬ーっ」
2年A組の教室の出入り口から出てきた莉紗が、奏多と一緒に紬と渚の前に現れる。
紬「莉紗っ!」
紬・心の声(羽瀬くんも一緒だっ……!)
奏多の姿を見るなり頬を赤く染めてドキッとする紬。
莉紗「……って、あれ? 一緒にいるの、紬のクラスに来た転校生くんだよね⁉ イケメンって噂の!」
奏多「こらこら、失礼だよ」
渚に指差す莉紗を、奏多が困ったような笑顔でたしなめる。
渚「友達?」
紬「う……、うん」
不思議そうにたずねる渚に、赤くなった顔のままもじもじしながらコクンとうなずく紬。
莉紗「あっ、はじめまして! 巴莉紗です! 隣のA組だけど、いつも紬と仲よくさせてもらってます!」
渚「結城渚です。B組だけどこちらこそよろしく」
元気よく挨拶する莉紗に対して、淡々とクールに挨拶を返し、会釈する渚。
それから渚はチラッと奏多に視線を寄こす。
渚「で、巴さんと一緒にいるのは……」
奏多「羽瀬奏多です。僕も莉紗と同じA組の生徒なんで、よろしく」
渚「莉紗呼び……ってことは、二人は付き合ってんの?」
奏多「もちろん」
にっこり微笑んで、莉紗の手を取るなり恋人繋ぎをする奏多。
莉紗はニコニコして、奏多と顔を見つめ合う。
紬、ショックを受けて胸のあたりのシャツを片手でぎゅっとつかんで押し黙る(黒背景、ズキッという効果音)。
渚「へー、それは幸せなことで」
奏多「ありがとう」
渚は無表情で、さりげなく紬にチラッと視線を寄こす。
紬はうつむいたまま、落ち込んでいた(渚の視線には気づいていない)。
○通学路(昼)
閑静な通学路をとぼとぼと帰り道を歩く紬。
そんな紬の半歩先を歩く渚。
渚「紬、あの羽瀬ってやつのことが好きなの?」
突然渚にたずねられて、足をぴたりと止める紬。
紬「な……何言ってんの?」
ぎこちない半笑いを浮かべる紬は、ぎゅっと拳を握り締めた手を震わせる。
紬「羽瀬くんは莉紗の彼氏なんだよ。親友の彼氏を好きになるだなんて……、そんな最低なこと思うわけないじゃんっ……」
思い詰めたように言い放つ紬に対して、渚は傷ついたような切ない表情で彼女のことを振り返っている。
渚「じゃあなんで、そんなに泣きそうな顔してんだよ」
目尻に涙をためて、唇をきゅっと結んで、小刻みに震えながらも泣くのをこらえる紬。
紬「そ……、そんなことないっ!」
強がったものの、ぽろぽろと涙をこぼす紬。
紬「やだっ……、何でっ……」
止まらない涙を必死に手で拭おうとする紬。
渚は紬の前にすっと向かい合うように立つと、彼女の目尻にたまった涙を親指で払う。
渚「泣きたいなら泣いてもいいよ。これからは俺がいつでもそばにいる。そして、こうして紬の涙を拭ってやるからさ」
紬「えっ――? どう、して……?」
唖然とする紬に向かって、渚は真剣な顔で一言はっきりと言う。
渚「好きなんだよ、紬のこと」
モノローグ【9月。私は、再会した初恋の人から、人生初の告白をされました】
主人公の楢崎紬(こげ茶のセミロング)の隣の席に座る、結城渚(くせのない黒髪、クールな顔立ちのイケメン)が、小声でささやく。
渚「紬、ただいま」
フッと微笑む渚に、顔を赤らめる紬。
モノローグ【9月。2学期の到来と共に、私の初恋の人が転校生として戻ってきたようです】
○通学路 (9月上旬 朝)
莉紗「つーむーぎーっ、紬ってばー!」
多くの生徒で賑わう通学路を歩いて登校中の紬の背後から、彼女の親友・巴莉紗(毛先がふわふわとした金髪のボブ、猫のような目つきの綺麗な女子)が声をかける。
莉紗「おはよーっ、紬!」
振り返る紬に満面の笑みで挨拶する莉紗。莉紗の彼氏・羽瀬奏多(柔らかそうな暗めのミルクティー色の髪、メガネをかけている)も一緒にいて、紬は彼を見るなりドキッと心臓を高鳴らせて、顔を真っ赤にする。
紬「莉紗、羽瀬くんっ……! おっ……、おはよう!」
ドキドキしながら挨拶を返す紬。
そのとき、奏多が不思議そうに紬の顔をじーっと見つめる。
奏多「ん? どうかした?」
穏やかに微笑んで、首をかしげる奏多。
紬はここでハッと気づいて、あわててブンブンと頭を横に振る(←ここはデフォルメ)。
紬「なんでもない! 早く学校に行こう!」
紬、サッと顔を前に向けて、更新するように歩き出す(しかし、右手と右足が一緒に出るような歩き方)。
莉紗「紬、気合い入ってんね~っ!」
奏多「今日から2学期だからじゃない?」
楽しそうにおしゃべりをする莉紗&奏多カップルの声を聞きながら、紬ははーっとため息をついてうつむき、再び顔を真っ赤にさせる。
紬・心の声『ああ、今日もかっこいいなあ……。羽瀬くん』
モノローグ【楢崎紬。17歳。どこにでもいる平凡な高校2年生……だと思いたいんだけど、どうしてか】【私はいつも、好きになっちゃダメな人に恋をしてしまう】
【例えば、中学時代の担任の先生や、すでに片思いの相手がいる先輩、会ったこともないアイドルなどなど……】
(ここで黒髪メガネにスーツを着た男の先生の笑顔、片思いの相手を思って照れている先輩、茶髪の爽やか系アイドルがマイクを握って歌っている姿が描かれる)
【自分なりに折り合いをつけて諦めてきたけれど……】【よりにもよって、親友の彼氏を好きになってしまうだなんて……】(親友→莉紗の顔のデフォルメ、親友の彼氏→奏多の顔のデフォルメのイラストが、矢印で説明するように小さく描かれる)
がっくりと肩を落として涙を流す紬。
紬・心の声『できるなら、誰かに相談したい。でも、こんなことを人に打ち明けたら、最低だって思われそうだよな……』
モノローグ【昔はこんなんじゃなかったのにな。だって、私の初恋の人は――】
ここで顔の上半分が見切れた小学生ぐらいの男の子(小学生時代の渚)が、手を伸ばしている絵が描かれる。
○2年B組教室 (朝)
先生「えー突然だが、今日からこのクラスの仲間になる転校生を紹介する」
渚「結城渚です。よろしくお願いします」
黒板の前に立つ先生の隣に、渚が立っている(先生と渚の間には、『結城渚』という綺麗な文字が白いチョークで書かれている)。
自分の席(窓際の列の一番後ろ)に座ったまま、目と口を大きく開けてポカーンとしたまま固まる紬。
クラスの女子たちは渚に対して目をハートにして、キャーキャー騒いでいる。
クラスの女子たち「え、ヤバ!」「めっちゃかっこいい……」
紬・心の声『う、うそ……。渚くん……?』
先生「とりあえず、結城はそこ。空いてる席に座ってくれ」
紬・心の声『空いてる席って……、私の隣じゃん! どうしよどうしよどうしよ……』
目をぐるぐる回しながら焦る紬。すぐに、カタンという椅子を引く音がする。
渚「よろしく」
紬の顔を覗き込むように挨拶してくる渚。
モノローグ【サラサラの黒髪、長いまつ毛】【最後に会ったときよりも背が高くなって、顔つきも大人っぽくなってるけど、やっぱり私の知ってる渚くんだ……】
紬「あ、あのー……私のこと、覚えてる……?」
おそるおそる渚にこそっと小声でたずねる紬。
渚「え?」
紬「私、楢崎紬っていうんだけど……」
そわそわしながら思いつめた顔で渚を見つめる紬。
渚はきょとんとした顔で紬を見つめるが、フッと微笑む。
渚「覚えてるよ。生まれたときから一緒にいたんだから」
紬、ハッと息を呑む。
○(回想)
モノローグ【私と渚くんは、もともとご近所同士】【親たちも仲が良かったから、私たちはいつも一緒だった】
(赤ちゃんの紬と渚が横に並んで寝ているシーン、2~3歳ぐらいの紬と渚が公園の砂場で遊ぶシーン、楢崎家&結城家でコテージでバーベキューをするシーン、小学校の校門の前にある入学式の立て看板の横に並ぶ緊張した紬と渚のシーンが描かれる)
○(回想)紬と渚の小学生時代(1年生)
モノローグ【渚くんは頼もしくて、私にとても優しくしてくれて】
転んで泣きそうな紬に、微笑みを浮かべた渚が手を差し伸べる。
モノローグ【気づけば私は、彼のことを好きになっていた】
その手を取り、顔を赤らめて少しうつむく紬のアップ。
モノローグ【そう、これが私の初恋】
○(回想)紬と渚の小学生時代(3年生)
モノローグ【でも、いったん離ればなれになってしまって――……】
小学3年生渚『ごめん、紬。俺、お父さんの仕事の都合で引っ越すことになったんだ』
小学3年生紬『え……』
はっきりと伝える渚に、彼と向かい合わせになる紬はショックを受けた顔になる。
小学3年生渚『でも、必ず戻ってくるから。また会えたら――……』
(回想終了・ここで現在に戻る)
渚「紬、ただいま」
フッと微笑む渚に、顔を赤らめる紬。(冒頭のシーン)
モノローグ【またこうして初恋の人と再会するだなんて、なんだか夢でも見てるみたいだ】
○2年B組教室 (正午 放課後)
女子たち「結城くーん! 一緒にカフェでランチしない?」「この街に引っ越してきたばかりでしょ? 案内してあげるよ」「あっ、ずるーい! あたしも行く!」
放課後になったと同時に、渚の机の周りを囲む大勢のクラスの女子たち。
だが、渚は一切興味を持たず、クールにスルー。
紬・心の声『渚くん、転校早々人気だな……。私が話しかける隙もないくらい』『せっかく再会したんだから、もっとたくさんおしゃべりしたかったけど諦めよう』
ちょっと切なげな、しゅんとした顔をしながら、帰り支度をする紬。
スクールバッグを持とうとしたところで、渚に肩をつかまれてぐいっと引き寄せられる。
渚「悪い。俺、紬と一緒に帰る約束してるもんで」
しれっとした顔で女子たちに告げる渚と、彼に密着して目を丸くしていた紬は、内心慌てる。
紬・心の声『やっ……、約束⁉ 私、渚くんと聞いてない!』(目をぐるぐる回して慌てる紬のデフォルメ絵付き)
女子たち「楢崎さん、それ本当なの⁉」「いつから結城くんとそんな約束するまで仲良くなってんの⁉」
紬「えっ……、えーと……」
渚「さ、行くぞ」
詰め寄る女子たちに紬はたじたじ。
だが、ここで渚が騒ぐ女子たちを完全スルーして、紬の肩をつかんだまま教室を出る。
○廊下
渚に肩をつかまれたまま、彼と一緒に歩きながら慌てる紬。
紬「なっ、渚くん……! 待ってよ! 一緒に帰る約束ってなに⁉ した覚えないんだけどっ……!」
渚「ああ。そうだな」
目を閉じてうなずく渚。でも、目を開けて紬に視線を向けて、
渚「でも、俺は最初から紬と一緒に帰るつもりだったから」
紬「へっ……?」
渚「いいだろ。小学生のころも毎日一緒に帰ってたじゃん」
すました表情で紬の顔を覗き込む渚に、紬は冷や汗をたらしながらも、釈然としないように唇をとがらせる。
紬「それはまあ、そうだけど……」
紬・心の声(でも、小学生のときと今じゃ事情が違うような……)
莉紗「あっ! 紬ーっ」
2年A組の教室の出入り口から出てきた莉紗が、奏多と一緒に紬と渚の前に現れる。
紬「莉紗っ!」
紬・心の声(羽瀬くんも一緒だっ……!)
奏多の姿を見るなり頬を赤く染めてドキッとする紬。
莉紗「……って、あれ? 一緒にいるの、紬のクラスに来た転校生くんだよね⁉ イケメンって噂の!」
奏多「こらこら、失礼だよ」
渚に指差す莉紗を、奏多が困ったような笑顔でたしなめる。
渚「友達?」
紬「う……、うん」
不思議そうにたずねる渚に、赤くなった顔のままもじもじしながらコクンとうなずく紬。
莉紗「あっ、はじめまして! 巴莉紗です! 隣のA組だけど、いつも紬と仲よくさせてもらってます!」
渚「結城渚です。B組だけどこちらこそよろしく」
元気よく挨拶する莉紗に対して、淡々とクールに挨拶を返し、会釈する渚。
それから渚はチラッと奏多に視線を寄こす。
渚「で、巴さんと一緒にいるのは……」
奏多「羽瀬奏多です。僕も莉紗と同じA組の生徒なんで、よろしく」
渚「莉紗呼び……ってことは、二人は付き合ってんの?」
奏多「もちろん」
にっこり微笑んで、莉紗の手を取るなり恋人繋ぎをする奏多。
莉紗はニコニコして、奏多と顔を見つめ合う。
紬、ショックを受けて胸のあたりのシャツを片手でぎゅっとつかんで押し黙る(黒背景、ズキッという効果音)。
渚「へー、それは幸せなことで」
奏多「ありがとう」
渚は無表情で、さりげなく紬にチラッと視線を寄こす。
紬はうつむいたまま、落ち込んでいた(渚の視線には気づいていない)。
○通学路(昼)
閑静な通学路をとぼとぼと帰り道を歩く紬。
そんな紬の半歩先を歩く渚。
渚「紬、あの羽瀬ってやつのことが好きなの?」
突然渚にたずねられて、足をぴたりと止める紬。
紬「な……何言ってんの?」
ぎこちない半笑いを浮かべる紬は、ぎゅっと拳を握り締めた手を震わせる。
紬「羽瀬くんは莉紗の彼氏なんだよ。親友の彼氏を好きになるだなんて……、そんな最低なこと思うわけないじゃんっ……」
思い詰めたように言い放つ紬に対して、渚は傷ついたような切ない表情で彼女のことを振り返っている。
渚「じゃあなんで、そんなに泣きそうな顔してんだよ」
目尻に涙をためて、唇をきゅっと結んで、小刻みに震えながらも泣くのをこらえる紬。
紬「そ……、そんなことないっ!」
強がったものの、ぽろぽろと涙をこぼす紬。
紬「やだっ……、何でっ……」
止まらない涙を必死に手で拭おうとする紬。
渚は紬の前にすっと向かい合うように立つと、彼女の目尻にたまった涙を親指で払う。
渚「泣きたいなら泣いてもいいよ。これからは俺がいつでもそばにいる。そして、こうして紬の涙を拭ってやるからさ」
紬「えっ――? どう、して……?」
唖然とする紬に向かって、渚は真剣な顔で一言はっきりと言う。
渚「好きなんだよ、紬のこと」
モノローグ【9月。私は、再会した初恋の人から、人生初の告白をされました】