さよならダメ恋、またきて初恋。

第4話

○通学路 (放課後 3話の続き)
紬「渚くん、どこに行ってるの⁉」
渚に手を引かれ、小走りで通学路を急ぐ紬。
モノローグ【ついさっき、渚くんが教室で電話を終わらせたあと】
(スマホを耳に当てて「わかった」と言う渚と、頭にはてなマークを1つ浮かべる紬のデフォルメ絵)
モノローグ【急に私を連れて学校を出たけど一体どうしたんだろう……?】
(校舎を出る渚と、渚に手を引かれて、頭のはてなマークを3つ浮かべる紬のデフォルメ絵)
渚「俺んち! 母さんが、紬を連れて帰って来いって」
渚が後ろを振り返ってそう答える。
紬「お、おばさんが⁉ 何で?」
渚「さあ? とにかく、帰ってからのお楽しみとしか……あっ、着いたぞ」
理解できないとばかりに困り果てる紬と、前を向き、正面にある自分の家に気づいた渚。
『結城』という表札が付いた立派な門と、外壁がレンガのお洒落な洋風の家(渚の家)が描かれる。
紬・心の声『ここが渚くんち⁉ すっごい綺麗なおうち……』(目をキラキラさせてときめく紬のデフォルメ絵)


○渚の家のリビングダイニング
渚「ただいま!」
渚母「おかえりー」
渚がドアを開けると、広々としたモデルルームのようなリビングダイニングに、渚両親と紬両親が揃って笑顔で出迎えてくれる。
渚「親父、帰ってたのかよ⁉」
紬「お父さんとお母さんまで……⁉ 何で⁉」
渚母「実は前から、『また家族ぐるみで何かしたいね』って話をしてて……」
紬母「今日はお互いのスケジュールが合ったから、一緒にお夕飯をいただこうってことになったのよ」
(渚母:黒髪ショートへア、ワンレングスの綺麗なお母さん、紬母:明るい茶髪のボブヘアの、ふわふわした雰囲気のお母さん)
紬「それにしては、豪華過ぎない……⁉」
広いテーブルの上には、唐揚げ、エビフライ、手毬寿司、サラダ、カップケーキなど華やかなパーティー料理がずらっと並んでいる(キラキラのエフェクト付き)。
渚母「あら?」
渚母と紬母が、渚と紬が手をつないでいることに気づいて目をぱちくりと見開く。
渚母「ふふっ、手をつないでるなんて……あなたたちって、本当に仲良いのね」
紬母「もしかして二人とも、付き合ってるの?」
にやける渚母、ウフフと微笑む紬母。
渚「あ、やっぱりそう見えます?」
しれっとした顔で返事をする渚。
紬・心の声『渚く――ん⁉』(←集中線で囲む)
紬「あのっ、お母さんたち! 違うの! 私たちはっ……」
紬父「ううっ、ひっく……」
慌てて渚から手を離し、真っ赤にして抗議するけれど、紬父(短髪でメガネをかけている)の泣きじゃくる声にさえぎられる。
紬父「あんなに小さかった紬に、もう彼氏がいるなんてっ……!」
渚父「まあまあ、時の流れは早いものですからね」
よしよしと紬父をなぐさめる渚父(オールバックでたくましい体つき)。
紬・心の声(二人共、誤解だから!)
渚母「それじゃあ、楢崎家と結城家の再会と、紬ちゃんと渚の交際を祝って、みんなで乾杯しましょうか」
紬母「あら、いいわねー!」
渚父「渚は紬ちゃんの隣でいいよな」
紬父「紬ぃいい~っ!」
(両親たちの言葉はセリフだけ)
紬「えっ、ちょっと……」
青くなる紬。
紬・心の声『何でこうなっちゃうの――っ⁉』(←集中線で囲む)(背景は夜空)


○紬の部屋 (夜 9時半ごろ)

紬「はあっ、疲れた……」
タオルを首にかけたパジャマ姿の紬(お風呂上がり)が、自分の部屋のベッドにドサッと腰を下ろす。
紬・心の声『結局、どっちの両親にも誤解されたままになってしまったな……。しかも、私と渚くんそっちのけで盛り上がってたし……』
タオルで濡れた髪を拭く紬の横顔アップ(その近くに、肩を組んでグラスを掲げてどんちゃん騒ぎをする紬父と渚父。キャッキャとはしゃいでいる紬母と渚母。それから目を点にして「……」と無言で固まっている紬と渚のデフォルメ絵が描かれる)。
そのとき、ベッドサイドに置いていた、充電器に差している紬のスマホが鳴る。
画面には渚の文字と、海の波打ち際の写真のアイコンが浮かぶ。
紬「電話……? 渚くんからだ!」
ハッと気づいて電話に出る紬。
紬「もしもし、渚くん?」
渚『あっ、紬。時間大丈夫?』
紬「うん。今お風呂から上がったばかりだから」
とたんに、ガタッという大きな物音が紬のスマホの向こうから聞こえる。
紬「渚くん⁉ 大丈夫⁉」
心配して、焦って渚に声をかける紬。

○渚の部屋
渚「だ、大丈夫……」
渚、床に尻餅をついている(背後には倒れた椅子)。
紬『本当に? 今、大きな物音がしてたけど……』
渚「気にしないでくれ、そんなことより……」
もんもんとしながらも、顔を赤くしながら立ち上がる渚。
それから窓辺に腕を乗せると、少し下を向いて話を続ける。
渚「紬、ごめんな」
紬『え?』

○紬の部屋
渚『俺と紬が付き合ってる、なんて……。親父たちの誤解を招くようなことを言ってしまって……』
目を丸くして、スマホ越しの渚の謝罪を聞く紬(顔アップ)。

○渚の家、外
開けっ放しの窓辺に立つ、申し訳なさそうな顔をしている渚。(上からのアングル)
渚「不本意だよな、俺と付き合ってるなんて誤解されて……。あの場ですぐに訂正しなくて悪かった」

○紬の部屋
あたふたする紬。
紬「それはそう、って言うところなんだろうけど、仕方ないよ。どっちの両親もかなり盛り上がってたし、あの場で私たちが誤解を解くタイミングなんてなかったんだもの」
渚『そ、そうか……?』
紬「そうだよ! だから、あまり気に病まないで」(口を大きく開けて、懸命な顔をした紬の横顔アップ・右向き)

○渚の部屋
渚「紬は優しいな」(薄く笑みを浮かべる渚の横顔アップ・左向き)
紬『そ、そうかな?』
渚「ああ。少なくとも、俺は昔からそう思ってたよ」

○紬の部屋
紬「あっ、渚くん! 話変わるけど、今日はお招きありがとうね。渚くんのお母さんが作ったご飯、おいしかった」
思い出したような顔つきで、スマホに向かって声をかける紬。
渚『紬のおばさんお手製のカップケーキもうまかったぞ』
紬「でさー」(←書き文字)
(ベッドに座って、ニコニコしながら話をする紬の斜め後ろ姿アングル)
紬母「紬ー、まだ起きてるの? もうすぐ11時よ」
ガチャ、開いたドアのすき間から紬母が顔を出す。
紬「わあっ! もうこんな時間!」
ビクッと肩が跳ね上がる紬。背後の壁掛け時計の針が10時55分を差している。
紬「なっ、渚くん!」
渚『ん?』
紬「今日はもう遅いから、また明日学校でね」
渚『ああ、おやすみ』
紬、電話を切る。
紬「ふう……」
スマホの画面を見つめてため息をつく紬。
紬・心の声『渚くんとのおしゃべりに、すっかり夢中になってしまった……』
名残惜しそうに目を軽く伏せる紬
紬・心の声『でも、もうちょっと話したかったな。……あれ?』
紬、はたと顔を上げる(横顔のアップ)。
モノローグ【どうやら、私の中で】

○渚の部屋
窓辺から静かに夜空を見つめる渚。
モノローグ【渚くんの存在が、少しずつ大きくなっているみたいです】

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