クズ男から愛の花束を君に
ガチャン。


月明かりが薄っすら入るだけの小さな玄関に鍵が閉まる金属音がやけに大きく響いたように感じた。


お互いに靴を履いたままの状態。
1DKの特に変わりのない一人暮らしの間取り。


とりあえず、リビングに座ってもらうか。
立ったまま一言も発さない天真に振り返るとリビングの照明をつけながら声をかけた。


「天真、とりあえず電気つけたからリビングのソファーにでも座って?お茶くらいしかなないけどお茶でいい?」


「うん、ありがとう。天音、俺の話聞いてくれる?」


「聞くよ」


そう話しながら、冷蔵庫からお茶を取り出すために屈んだ時、後ろから抱き締められた。
天真だ。


またさっきと同じ甘い香りがする。


「っ、天真、離して!」


「何で?俺の事嫌いになった?」


細身なのに、凄い力で抱き締められて振りほどけない。まるで逃げ出さないとでも言うように力が弱まることはない。それに首筋に天真の髪があたってくすぐったい。


「甘い女の子の香りがして嫌なの」


「え?」


「そんな香りをつけてあたしに触れないで」
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