孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
「遥さん、ケーキとか買われるんですね」
「え?」
「ちょっと意外だったというか」
遥さんはふっと笑い、冷蔵庫を閉めると通りすがりに私の頭をぽんと撫でた。
「今まで買って帰ってきたことなんかない。真白がいるからだろ」
どきんと鼓動が音を立てる。
「ぁ、ありがとうございます」
遥さんは「今手伝いに戻る」と言い残し、キッチンを出て行く。
ひとりになって、高鳴ってしまった鼓動をごまかすようにテキパキと食材切りに専念する。
偽装夫婦として共同生活を始めて一カ月。
不安と心配の中始まったこの生活にも馴染み、なんとかうまくやっている。
お互いの職業柄、遥さんは特に不規則。時間もだけど、国際線のフライトの場合向かう先によっては数日帰ってこない時もある。
私の方も勤務は早番遅番の二交代制で、早番の時は四時過ぎには出かけるし、逆に遅番の時は帰宅が深夜零時頃になる。
偶然休みが合う時もあるけれど、そうではない時もあるから、一緒に過ごす時間はこの一カ月間振り返ってみてもそこまで多くはなかったかもしれない。
でも、今日のように一緒に過ごせる夜には、こうして食事の支度をして一緒に食卓を囲む。