孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
白菜を切りながら、やっと心臓も静かになってくる。
この間の一件があってから、今まで以上に遥さんのことを意識してしまって落ち着かなくなっている。
突然の口づけ……。
『それなら、夫婦らしいことをすれば自覚できるだろ』
その直前に言われた言葉と共に、あの数秒間のことが頭から離れず、あの後は遥さんのことを直視できなかった。
でも、不思議なことにそれが嫌だったとか、不快だったとか、そんなことはなく……。
ただずっと、〝夫婦らしいことってなに⁉〟と、そればかりがぐるぐるしていた。
私の方はあのほんの数秒の出来事で動揺を隠しきれないのに、遥さんの方はいつも通りで普通。
こちらが意識しているのが過剰と思えてしまうほど何事もなかったような様子なのだ。
今だって、私の方はちょっと触れられただけでドキドキしているというのに、遥さんは私に平気で触れることができて……。
この温度差はなんだろうと思ってしまう。
この関係が始まったばかりの頃は、そこまで遥さん自身のことを考えることはなかった。
どちらかというと、自分の身を案じていた部分が大きかったから。
だけど、少しずつ彼がどんな人なのか、どんな考えを持っているのかを知っていくうちに、着実に心を許していた。