クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
その日の晩。
遅番の仕事を終えてタクシーで帰宅をしたのは、日付も変わろうとしている時刻。
もしかしたら遥さんはすでに休んでいるかと思い、静かに玄関を入る。
そろりとリビングに入ると、遥さんはひとりソファにかけていた。
「おかえり。お疲れ様」
帰ってきた私の姿にソファを立ち上がる。
「お休みじゃなかったんですね」
「そろそろ帰ってくる頃だと思って待ってた」
私の目の前までやってきた遥さんは、まだコートも脱いでいない私を抱き寄せる。
側頭部に寄せた唇から「今日はありがとう」と静かな声が届いた。
「いえ、私はなにも。遥さんとの約束を果たしただけですから」
「ああ、わかってる」
腕を解き、遥さんがコートを脱がせてくれる。
「これ、どうした?」
その途中、突然首元を覗かれてあっ!と思い出した。
「あ、これは……実は、あの昼間の一件の時に……」
仕事中はスカーフもしているし、すっかり忘れていたけれど、さっき更衣室で着替えをしている時に鏡を見て気が付いた。
難波さんにエンゲージネックレスのことで掴みかかられた時、ネックレスを守ろうとよけた拍子に彼女の爪の先が私の首をこすったのだ。