孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
それからある時は、到着業務で聴覚障害のある乗客を到着ロビーに送りながら手話で談笑している姿を見かけたこともあった。
すごく盛り上がっている様子で、乗客の嬉しそうな表情と、彼女の爽やかな笑顔が目に焼きついた。
いつ見かけても真摯に業務に打ち込み、一生懸命に取り組んでいる姿には好感を持てた。彼女のような人に自分たちのフライトは支えられているのだと感謝することもできた。
そういえば、日曜日……。
ふと、コーヒーに口をつけながら数日前の出来事を思い返す。
仕事においても特に直接的な接点はないが、この間の日曜日にプライベートな彼女を見かける機会があった。
代官山のサロンに行った帰り道、ふらっと通りがかった絵の個展で彼女の姿を見かけたのだ。
絵を描く趣味があることを知り、買い取られるようなスキルの持ち主だということも知れた。
彼女が気づく様子もなかったから声もかけず立ち去ったが、話すにはいいきっかけだったかもしれない。
ぼんやりとしているうち、飲み終わらないカップを手にいそいそと彼女たちが店内を出て行く。その様子を横目に見ながら、『ごめん、なんの話?』ときょとんした彼女の顔を思い出していた。