孤高なパイロットはウブな偽り妻を溺愛攻略中~ニセ婚夫婦!?~
そのことに気づいた後、ドイツにいる遥さんから一度だけ連絡があった。
新年が明けての挨拶で電話をかけてきてくれた遥さんは普段通りで、私はその話題を切り出すことができなかった。
離れてから数日しか経っていないのに、電話口から聞こえる遥さんの声にきゅんとして、胸が締め付けられて、早く会いたいと思ってしまう。
そんな想いを抱いて出せる話題じゃなかった。
気づかないうちに少しずつ膨らんでいった彼への想いを自覚したときには、関係が終わる瞬間が刻々と近づいているという残酷な現実。
一線を越えてしまった、なにより気持ちが入ってしまったのに、募った想いを葬れるかは自分自身でもわからない。
きっと、関係を解消して関わりがなくなっても、そんな簡単に忘れることなんてできない。
空港で顔を合わせることもたびたびあるだろうから、そのたびにこの数カ月の思い出が脳内で再生され胸が苦しくなるのだろう。
もしかしたらそれに耐えられなくて、仕事ができなくなったりして……。
誰かをちゃんと好きになって、その想いを断たなくてはいけないという経験が今まで一度もない。
だから、どんなに辛く悲しいことなのか想像でしかイメージできないのだ。