クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「今連絡が入って、管制室から、上空に雷雲が発生しているから着陸を見合わせることになるかもしれないって」
「え、雷雲ですか?」
思わず訊き返す。
こんな真冬に雷の発生など聞いたことがない。夏場はよくゲリラ雷雨などがあるけれど、こんな時期に雷雲とは……。
「珍しいわね。冷たい季節風と、本州の沿岸に流れてきた暖流の温度差で、低空に雷雲ができることが稀にあるのよ」
遥さんが操縦桿を握る旅客機が到着する時刻が迫っている。
どんよりとした空を再度見上げ、おかしなことに気が付いた。
「旅客機が、旋回してる……あれって、ミュンヘンからの到着便では」
間違いない。遥さんが操縦桿を握る便だ。
着陸待機の指示を受け、刻一刻と変わる気象状況の中、操縦席にいる遥さんも神経を尖らせていることだろう。
「雷雲発生ということは、やっぱり着陸は……?」
思わぬ緊急事態に、全身が緊張に包まれていく。
過去には上空で機体が雷に打たれ、機内で異臭が発生するなどという事例もあった。
遥さんたちパイロットには、この情報はもう届いているのだろうか。