クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~


 * * *


《羽田空港上空に雷雲が発生しています。上空待機をお願いします》


 羽田管制室からの知らせに思わず眉を寄せたのは少し前のこと。上空待機の指示が出て、操縦室は騒然となる。この時期の雷雲とは稀だ。


「了解」


 羽田を発ったのは、一年の締めくくりとなる大晦日、十二月三十一日。

 今年はドイツ、ミュンヘンへの国際線フライトが早くから決まっていた。

 片道約十二時間のフライト。今回は機長三人、副操縦士ひとり、四人でフライトに臨んでいる。


「お客様にお知らせです。現在、羽田空港上空に雷雲が発生しており、当機は上空待機をしております。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけします──」


 雷雲発生による上空待機の指示を受け、機内に状況をアナウンスする。

 パイロットたちからは、これは下手をすればダイバートで別空港への着陸になるのではと不吉な声も上がり始めた。


《高度三千フィートまで上げ、再度指示を仰いでください》

「了解」


 定刻通り到着する予定でいたが、どうやら叶わなそうだと気持ちを入れ替える。

 羽田に戻れば、すぐに真白の顔を見られるとシフトを聞いてから心待ちにしていた。

 数日会っていないだけで、真白が恋しくてたまらない。

 一分一秒でも早く顔を見たかったのに、よりにもよってこのような不足の事態に見舞われるとは。

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