クールなパイロットの偽り妻を演じます⁉~契約外の溺愛はどういうことですか?~
「遥さん、なにか飲みますか? 一応、祝い酒みたいなものは買ってみたんですけど」
「ありがとう。せっかくだから少し飲むか」
金箔の入った純米酒。小さなグラスと共にダイニングテーブルへ運ぶ。軽く瓶を揺すってからグラスに注いだ。
「後で、お雑煮を出しますね」
向かい合ってテーブルにつき、「いただきます」と食事を始める。
遥さんはお節を一品ずつ口にしては褒めてくれる。
作ってよかったなと思いながら、目の前の光景を目に焼き付けていた。
他愛ない話をしながら向かい合ってする食事、一緒に楽しむお酒。
当たり前になりつつあったひとつひとつのことが、これが最後かもしれないと思いながら過ごすのは切なさが込み上げる。
「真白……?」
咀嚼をしながら目にいっぱい涙が浮かんできて、遥さんの呼びかけで自分の揺れる視界にハッとした。
「どうした?」
遥さんにもそれは気づかれたようで、真剣な眼差しに射抜かれる。
ごまかすようにグラスを取り、お酒をひと口飲んだ。
「え? どうもしてないですよ」
「どうもしてないことあるか。なんで泣いてる」
口に出されると観念したように涙が頬を伝ってしまい、もう隠すことはできない。急激に抑えていた想いが溢れ出していく。